6月12日

 

 

 泉拓磨氏(国立天文台フェロー)らの国際研究チームは11日、131億年前の宇宙に存在した銀河をアルマ望遠鏡で観測した結果、銀河中心の超巨大ブラックホールが駆動源であると考えられている「銀河風」が吹き荒れている様子を発見したと発表した。同様の銀河風が発見された銀河の中では、観測史上最も古い銀河であるとしている。銀河風が吹き荒れた場合、星の材料である星間物質が銀河外に流失し、銀河の中で星が生まれにくくなる。今回の研究成果は、銀河とブラックホールが相互に影響を及ぼしながら進化してきた(共進化)歴史を紐解く重要な成果であるとしている。

 

 宇宙には幾多の銀河が存在するが、多くの大型の銀河の中心には、太陽の数百万倍から数百億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールが隠れている。興味深いことに、そのブラックホールの質量と銀河中央部(バルジ)の質量はほぼ比例すると考えられている。銀河とブラックホールの大きさが10桁ほど異なるにも関わらず、2者の質量にきれいな比例関係があることはとても不思議な事実である。研究者は両者が何らかの物理的相互作用をしながら共に成長・進化した、つまり「共進化」したと考えている。

 

 銀河とブラックホールの共進化で重要な役割を果たすのは、銀河風である。超巨大ブラックホールは物質を大量に飲み込んで成長するが、このとき、ブラックホールの重力で高速運動を始めた物質から強烈なエネルギーが発せられることで、周囲の物質を外側に押し出す。この影響が外側へ外側へと伝搬すると、やがては銀河全体に吹き荒れる風「銀河風」にまで発達する。この銀河風によって、銀河全体から見るとごく小さなサイズのブラックホールから、銀河全体のスケールにわたる影響が生み出される。こうした銀河風が、138億年の宇宙の歴史の中でいつ頃から存在したのかは大きな謎である。この謎を解くことは銀河と超巨大ブラックホールがどのように進化してきたのか、という天文学の重要な問題を解決することにもつながる。

 

 研究チームは超巨大ブラックホールが駆動する銀河風を過去の宇宙で探るために、まずはハワイ・マウナケアに設置された、すばる望遠鏡を用いて宇宙の広い範囲を観測し、超巨大ブラックホールを持つ銀河を130億年以上昔の宇宙において100個以上も発見した。そして今回これらの銀河に存在する銀河風の存在を明らかにすべく、アルマ望遠鏡を用いてHSC J124353.93+010038.5(略称 J1243+0100)銀河を観測した。その結果、この銀河に含まれる塵と炭素イオンが放つ電波を捉えることに成功し、炭素イオンが放つ電波からガスの動きを分析したところ、銀河の回転運動に加えて、毎秒500kmもの速度で移動する高速ガス流が存在することがわかった(図1)。またこのガスの動きは銀河に含まれる星の材料物質を押しのけ、星形成活動を停止させるのに十分なエネルギーを持っていることがわかった。今回見つかったガス流はまさに銀河風であり、銀河サイズの巨大な銀河風が見つかった銀河としては最も古い時代の観測例となった。さらに銀河風とは別に、J1243+0100の中で静かな動きを持つガスの運動も測定し、重力的なつり合いの関係からこの銀河のバルジの質量を推定すると、太陽の約300億倍となることが判明した。別の方法で見積もったこの銀河の超巨大ブラックホールの質量はその1%ほどであった。この銀河のバルジと超巨大ブラックホールの質量比は、現代の宇宙に存在する銀河における質量比とほぼ一致しているとしている。これは、宇宙誕生後10億年に満たない時代から、超巨大ブラックホールと銀河の共進化が起きていたことを示唆している。

 

 泉氏は「近年の高精度コンピューターシミュレーションでは、およそ130億年前時点でも近傍宇宙と遜色ない共進化関係が出来上がっていることが予測されていました。私たちの観測はその予測を支持するものです。私たちは今後、このような天体を大量に観測することを計画しており、本天体で見えてきた『始原的共進化』が当時の宇宙の普遍的な描像かどうかを明らかにしたいと考えています。」と今後の目標についてコメントしている。

 

 

図1 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Izumi et al.

アルマ望遠鏡が観測した、131億年前の宇宙に存在した銀河J1243+0100の画像。この銀河に含まれる静かな動きを持つガスの広がりを黄色、高速で動く銀河風の広がりを青色で表現している。銀河風は銀河の中心部分に分布しており、ここに潜む超巨大ブラックホールが駆動源であることを示している。

 

 

 

図2 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

銀河の中心にある超巨大ブラックホールによって銀河風が吹き荒れるようすの想像図。超巨大ブラックホールから放出される莫大なエネルギーによって星の材料である星間物質が吹き飛ばされている。