7月3日

 

 

 ラスベガス大学のDaniel Proga氏を中心とする研究チームは6月28日(アメリカ現地時間)、スーパーコンピューターシミュレーションによって超巨大ブラックホールから生み出されるX線がガスの津波構造を作ることが判明したと発表した(図1)。研究チームは活動銀河核を想定したシミュレーションを行った。今回の発見は超巨大ブラックホールが宇宙の中で一番大きな津波構造を作ることが示唆されるとしている。「地球の中で起きている自然現象を説明する法則は、遠い宇宙やブラックホール周りで起きている現象を説明する法則と同じものである」とダニエル氏はコメントしている。

 

 銀河中心にある太陽質量の100万倍以上の質量を持つブラックホールの力によって、銀河円盤からガスが放出されることがある。このような銀河は活動銀河核(AGN)と呼ばれる。活動銀河核からは双極方向にジェットが噴出しており、銀河円盤上ではブラックホールからの重力を振り切るほどのエネルギーを持つプラズマガスが循環しており、X線を放っている。またX線の放射によって圧力勾配が生まれて強い風が吹くようになる。この強い風はアウトフローと呼ばれる。

 

 研究チームは銀河中心におけるプラズマガスとX線の相互作用の理解を深めることを目指している。X線の効果はブラックホールから数十光年離れた場所にまで効果を及ぼすと考えられており、高密度のプラズマガスの雲の存在を説明する上でも重要な効果である。この高密度の雲は太陽の表面温度の数十倍あり、太陽風と同じ速度で動く。研究チームはブラックホールの力がエンジンとなって発生する高密度の雲がどのようにして出来上がるのかをコンピュータシミュレーションによって検証することとした。シミュレーションでは超巨大ブラックホールからの重力の影響が及ばなくなるまでの範囲を想定しているが、重量の影響が及ばないところでは冷たい大気が支配的になり、波を打つようになる。これは地球海面上と似たような構造をしている。シミュレーションを行った結果、冷たい大気がアウトフローと相互作用をすると、銀河円盤上で10光年ものスケールをもつ渦構造ができあがり、渦構造ができあがると同時に津波構造をもつ雲ができあがることがわかった。

 

 今回のシミュレーション結果は活動銀河核のブラックホールから生み出されるX線がまわりのガスにどのような影響を与えるかを検証することに成功した。X線によって温められたガスがバルーンのように飛び立っていき、このバルーンがブラックホールの重力の影響を受けない冷たい大気に影響を及ぼす。また銀河円盤上のアウトフローが乱流を生み出すことで冷たい大気が津波のように波打つようになる。この津波構造を持つガスは銀河円盤からの風をさえぎることができるようになり、カルマン渦と呼ばれる、独立した渦が連なる構造を持つようになる。これまでは磁場構造による影響で冷たい大気が銀河円盤から吹き出るようにならなければこのようなカルマン渦ができあがらないと考えられていた。

 

 今回のシミュレーション結果は実際に観測された例がこれまでにない。しかしチャンドラX線望遠鏡やXMM-Newtonによって観測された活動銀河核まわりのプラズマガスの温度と速度は、今回のシミュレーション結果と一致している。津波構造をもつガスが本当に生まれるかどうかを検証するために今後の観測が待たれる。

 

 

図1 ( C ) Nima Abkenar

超巨大ブラックホールまわりのガスの津波構造とカルマン渦のイメージ図。超巨大ブラックホールは銀河円盤の中心に存在するが、この銀河円盤から出るアウトフローから生み出されるX線がまわりのガスと相互作用することで津波構造(右上)とカルマン渦構造(右下)を作る。