7月10日

 

 

 金沢大学理工研究域電子情報通信学系の尾崎光紀准教授を中心とする研究グループは6日、宇宙で発生するコーラス波動(電子が磁力線に沿って螺旋運動することで生じる自然電磁波)が伝搬する様相とオーロラ発光の数値シミュレーションを組み合わせ、フラッシュオーロラ(カーテン状にゆらめくオーロラとは異なり、1秒以下の発光時間で突発的に発光するオーロラのこと)の形状変化を再現することに成功したと発表した。過去の観測結果においてフラッシュオーロラが低緯度側に拡大することがわかっていたが、その原因が宇宙のコーラス波動が発生域につながる磁力線から少しずつ逸脱し地球側に偏って伝搬するためであることを明らかにした。今回の研究成果は、フラッシュオーロラの形状変化を観測することで、コーラス波動の様相を予測することを可能にした。

 

 人工衛星に搭載される電子機器の故障を引き起こす危険な放射線電子の発生と消失の両方に、宇宙で発生する電磁波の一種であるコーラス波動が関わっていることが知られている。これまで科学衛星「あらせ」と磁力線でつながる地上観測局との協同観測により、コーラス波動は宇宙の発生域から地球磁力線に沿って伝搬しながら、高エネルギー電子を地上へ降下させ、フラッシュオーロラを発光させていることがわかっていた。フラッシュオーロラは形状変化することも知られていたが、高エネルギー電子とコーラス波動が宇宙で相互作用する領域(波動粒子相互作用領域)がどのように変化して、フラッシュオーロラの形状変化がどのようにして起こるのかの詳細については十分にわかっていなかった。オーロラの形状変化は宇宙のプラズマや磁力線の変化の様子を反映しているため、オーロラの形状変化の要因を明らかにすることは、地上から宇宙の電磁環境を把握するために重要な課題であるとされている。

 

 研究チームはフラッシュオーロラの形状変化の要因を探るべく、アラスカに設置された高感度かつ高時間分解能カメラで撮影されたフラッシュオーロラの発光分布の空間変化を解析することとした。解析の結果、北半球で観測されたフラッシュオーロラは北側(高緯度側)よりも南側(低緯度側)へ2.4倍も大きく拡大する傾向があることを明らかにした(図1)。このフラッシュオーロラの低緯度側への拡大は、コーラス波動とオーロラの基となる高エネルギー電子が生じる宇宙の波動粒子相互作用領域の拡大を表していることになるとしている。この空間変化を数値シミュレーションで再現すべく、研究チームは宇宙でのコーラス波動の詳細な伝搬解析と電離圏でのオーロラ発光計算を組み合わせる計算モデルを新たに開発した。実際に数値シミュレーションを行った結果、図1下に示すようにコンピュータ上で地上より観測されたフラッシュオーロラの形状変化を再現することに成功した。コーラス波動の伝搬解析の計算コードは、金沢大学の後藤由貴氏(2003年~2020年まで金沢大学)らが開発に尽力したものである。またフラッシュオーロラが低緯度側に拡大するのは、宇宙のコーラス波動が発生域につながる磁力線から少しずつ逸脱し地球側に偏って伝搬するためであることを明らかにした(図2)。さらに数値計算結果より、コーラス波動がより発生域から離れて伝搬できるほど、地上から見えるフラッシュオーロラの空間サイズが拡大することを新たに提唱した。コーラス波動がより発生域から離れて伝搬すると、コーラス波動の振幅がより大きくなることが示唆されており、オーロラ空間サイズからコーラス波動の伝搬の様子だけでなく、コーラス波動の振幅変化を知る手がかりになる可能性があるとしている。

 

 今回の研究結果はこれまで行われてきた科学衛星による直接的な観測だけでなく、北半球において低緯度方面に拡大するフラッシュオーロラによる間接的な観測によって宇宙のコーラス波動の伝搬を探ることを可能した。今後は、今回の研究成果を用いた電磁波とオーロラの総合観測により、放射線電子の発生と消失の様子がより詳細に調べてられていくことが期待される。また各国が推進する北半球、南極地域のオーロラ観測と、地球周辺の放射線の様相を調べている科学衛星あらせとの共同観測により、地球を取り巻く放射線電子を予測する新たな計算モデル開発やモデル改良につながるとしている。

 

 

( C ) 国立極地研究所

フラッシュオーロラを発生させるコーラス波動のイメージ図

 

 

図1 ( C ) 国立極地研究所

フラッシュオーロラの観測結果(上)と数値計算結果(下)

 

 

図2 ( C ) 国立極地研究所

宇宙のコーラス波動の伝搬の数値計算結果