7月17日

 

 

 国立天文台アルマプロジェクトの永井洋特任准教授らの研究チームは6月9日、ペルセウス銀河団の中心にある巨大楕円銀河NGC 1275(距離:約2億3千万光年)をアルマ望遠鏡を用いて観測した結果、他の銀河と同様に、ブラックホール中心回りの冷たい分子ガスからなる核周円盤を持っていることが判明したと発表した。さらにアメリカ国立電波天文台(VLBA)のデータを解析した結果、格周円盤の分布に沿ってシンクロトロン放射の分布が広がっていることが判明した。シンクロトロン放射は、格周円盤で作られた星が超新星爆発を起こして生み出された高エネルギー電子によるものであるとしている。ブラックホールに物質が落とし込まれるためには角運動量が輸送されなければならないという問題があるが、今回の観測成果は超新星爆発によって生じた高エネルギー電子が角運動量輸送の役割をしていることを示唆する重要な成果である。

 

 現在の宇宙に存在する銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍の質量をもった大質量のブラックホールが普遍的に存在すると考えられている。ブラックホールの重力に引き寄せられたガスは摩擦を介して高温に熱せられ、非常に明るく輝く「活動銀河核」として観測される。単位時間あたりにブラックホールに飲み込まれる物質の量が多いほど、活動銀河核は明るくなる。最近のアルマ望遠鏡の観測から、多くの銀河で、ブラックホールから数百光年以内の領域に、冷たい分子ガスが形成する回転円盤「核周円盤」があることがわかっている。また核周円盤中の分子ガスの量が多いほど、活動銀河核が明るい傾向にあることも知られている。したがって核周円盤中のガスが、ブラックホールへの物質供給の主な担い手があると考えられる。しかし、回転するガスは角運動量(遠心力)をもつため、なんらかの方法で角運動量を弱めないと、物質がブラックホールに落ちることができない。この問題は角運動量輸送問題として大きな謎とされている。

 

 研究チームはブラックホールに物質が降着する原因を探るべく、ペルセウス銀河団の中心にある巨大楕円銀河NGC 1275(距離:約2億3千万光年)を観測対象としてアルマ望遠鏡を用いて観測することとした。観測の結果、他の銀河と同様、核周円盤を発見することに成功した。円盤の半径は約300光年であり、分子ガスの総量は太陽質量の約1億倍にもなるとしている。研究チームはさらに、アメリカ国立電波天文台のVery Long Baseline Array (VLBA)によって観測されたデータを用いて、核周円盤の領域を調べた。その結果、NGC 1275の核周円盤の全体にわたって、淡く広がったシンクロトロン放射を発見した。シンクロトロン放射は、高速で運動する高エネルギーの電子が磁場と相互作用することによって放射されるものである。シンクロトロン放射はブラックホールから噴出するジェットなどからも放射されるが、今回観測されたシンクロトロン放射の分布は核周円盤の分布と非常に良く一致することから、核周円盤から放射されていると考えるのが自然であると研究チームは考えた。しかし分子ガス自身はシンクロトロン放射を生み出さないので、核周円盤内で高エネルギー電子と分子ガスとが共存していなければならない。この高エネルギーの由来を考察したところ、超新星爆発に起因してできたものであるというアイデアが浮かんだ。分子ガスは星を作る材料であることから、円盤内でも星が生成され、これらの星のうち質量の大きな星は、寿命を迎えると超新星爆発を起こし、大量の高エネルギー電子を生成するという考察のもと、このようなアイデアが浮かんだのである。なお、ブラックホール近くの核周円盤内で超新星爆発の痕跡を撮像によって明らかにしたのは、今回が初めてである。

 

 超新星爆発は、周辺に大量のエネルギーを供給する。これによって、核周円盤内のガスの運動が乱され(乱流)、角運動量が弱められることが理論的には期待されていた。実際に、理論的に予想される乱流速度と、アルマ望遠鏡で観測された分子ガスの運動の乱れが良く一致することも今回の研究によって判明した。「超新星爆発を使って角運動量を弱めるアイデアは、これまで理論的に提唱されていましたが、観測結果と理論が良く一致することに非常に驚きました。」と、呉工業高等専門学校准教授の川勝望氏はコメントしている。

 

 「アルマ望遠鏡とVLBAの高い解像度のおかげで、分子と高エネルギー電子という性質が大きく異なる2種類のガスを結びつけることに成功し、ブラックホールへの物質の降着を促す原因に迫ることができました。今後、他の活動銀河核においても同様の研究を行うことで、超新星爆発とブラックホールへの物質の降着を促す原因の関係を、さらに明らかにできると考えています。」と、永井洋氏は今後の期待についてコメントしている。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), VLBA, H. Nagai and N. Kawatatu

アルマ望遠鏡とVLBAで観測した銀河NGC 1275の中心部の合成画像。アルマ望遠鏡がとらえた中心のブラックホールを取り囲む分子ガス円盤をオレンジ色、VLBAが捉えた高エネルギー電子の分布を青色で示している。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

今回の観測をもとに描いた、活動銀河核の想像図。中心のブラックホールをガス円盤が取り囲んでいる。その円盤の中で発生する超新星爆発がガスの動きをかき乱すことで、ガスがブラックホールに落下していくと考えられる。