7月22日

 

 

 イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)の国際共同研究チームは19日、電波銀河と呼ばれる大規模ジェットをもつ銀河の中で最も地球に近いケンタウルス座Aの中心部の画像データを解析した結果、中心の巨大ブラックホールの位置を正確に特定し、大規模ジェットがどのように生まれているかを明らかにしたと発表した(図1)。ジェットのふちの部分だけが電波を放射しているように見えており、ジェットの理論モデルに影響を与える重要な発見であるとしている。

 

 可視光線よりも波長の長い電波を用いることで、ケンタウルス座Aは最も大きく、そして最も明るい天体の1つとして見つけることができる。この天体は1949年に初めて発見された銀河系外電波源の1つであり、これまで電波から赤外線、可視光線、X線、そしてガンマ線にいたる幅広い波長帯の望遠鏡によって観測されてきた。ケンタウルス座Aの中心には、太陽の5500万倍の質量を持つブラックホールがある。これは、2019年にブラックホールシャドウの画像が公開されたM87の巨大ブラックホール(太陽の65億倍)と銀河系の中心にある巨大ブラックホール(太陽の400万倍)のちょうど中間にあたる。巨大ブラックホールは、その非常に強い重力によって引き寄せられるガスや塵をエネルギー源としており、ガスや塵が引き寄せられる時に大量のエネルギーを放出する。またブラックホールのすぐそばにあるほとんどの物質はブラックホールに落下する。しかし、一部の周辺物質は、ブラックホールに捕らえられる直前に逃れ、宇宙空間に吹き飛ばされる。こうして、銀河が持つ最も神秘的かつエネルギーに満ち溢れた特徴の一つであるジェットが生まれる。天文学者はこのプロセスをよりよく理解するために、さまざまなモデルを使ってブラックホール近くの物質がどのように振る舞うのかを検証してきたが、ジェットが中心部からどのように噴出して光の速さ近くまで加速するのか、そしてそれらが拡散することなく銀河を通り抜けてどうやって伸びていくのかは、まだあまり理解されていない。

 

 今回研究チームは、ジェットの物理過程の謎を探るために、まずはEHTが2017年に観測したケンタウルス座Aのデータから、これまでになく詳細な画像を描き出した。天文学者のミヒャエル・ヤンセン氏は「これにより初めて、光が1日で移動する距離よりも小さいスケールで銀河系外の電波ジェットを研究することができます。巨大ブラックホールから噴出するとても巨大なジェットがどのように生まれているかを間近で直接見ることができます。」とコメントしている。画像からは詳細なジェットの流れを見ることができるため、巨大ブラックホールが存在していることがわかる。また画像データを解析した結果、ケンタウルス座Aのジェットは中央部と比べて端の方が明るいことが判明した。この現象はM87などの他のジェットでも知られているが、これほど顕著に見られたことはなかった。 「今回の画像のおかげで、ジェットの端が明るくなる現象を再現できない理論モデルを除外することができます。これは、ブラックホールによって生成されたジェットをよりよく理解するのに役立つ重要な特徴です」と、ドイツのヴュルツブルク大学のTANAMIリーダー兼天体物理学教授であるマチアス・カドラー氏はコメントしている。

 

 今回EHTで捉えられたケンタウルス座Aのジェットを解析したことで、ジェットが噴出する根元の領域にブラックホールが存在することが特定された。将来的には、この領域をさらに短い波長帯かつより高い解像度で観測すれば、ケンタウルス座Aの中心ブラックホールを撮影できることが期待される。これを実現するためには、人工衛星に搭載した望遠鏡が必要になるとしている。またジェットの流れについては、EHTで撮影したジェットの下流がより外側のジェットとどのように繋がるかを、日本・韓国・中国の電波望遠鏡からなる東アジアVLBI観測網で調べることができるとしている。EHTメンバーで国立天文台の田崎文得氏は「南天にあるケンタウルス座Aのジェットを詳しく調べるために、東アジアVLBI観測網とオーストラリア・ティドビンビラの電波望遠鏡を連携させて観測することがとても重要です。EHTと東アジア、オーストラリアの協力プレーで、このジェットの噴出・加速のメカニズムを解明することを目指します」と今後の抱負についてコメントしている。

 

 

図1 ( C ) Radboud University; ESO/WFI; MPIfR/ESO/APEX/A. Weiss et al.; NASA/CXC/CfA/R. Kraft et al.; EHT/M. Janssen et al.

今回EHTで観測したケンタウルス座Aのジェットの根元の最高解像度画像 (右) と銀河全体の擬似カラー合成画像 (左)。