8月1日

 

 

 アメリカ・スタンフォード大学のダン・ウィルキンス氏を中心とする国際研究チームは7月28日、ESAのXMM-NewtonとNASAのNuSTAR宇宙望遠鏡により、I ズウィッキー1銀河(地球からおよそ約8億光年離れた位置にある渦巻銀河)中心の巨大ブラックホールから放出されるX線フレアーを観測した結果、X線がブラックホールまわりに形成されたガス円盤からブラックホールに落ち込むガスに跳ね返されて光エコー(*注1)を引き起こしていることが判明したと発表した(図1)。X線フレアーを放出する源でもある、ブラックホールによるコロナ質量放出の謎を解き明かす重要な鍵になるとしている。

 

 I ズウィッキー1渦巻銀河中心の超巨大ブラックホールの質量は太陽質量のおよそ1000万倍である。

 

 これまで天文学者はブラックホールの背景にある光は、ブラックホールに吸い込まれて出てこずに、観測にもかからないことが予測されていた。しかし実際にはブラックホールの強大な重力によって周りの空間がゆがみ、光エコーが観測にかかることが今回の観測によって明らかになった。

 

 今回の観測結果は、X線を放出する源でもある、ブラックホールによるコロナ質量放出の謎を解き明かす重要な鍵となる。コロナ質量放出は、ガスが継続的にブラックホールが形成するガス円盤からブラックホールに落ち込むことで起こるとされている。水が排水口を流れていくのと同じようなことである。このガス円盤は100万℃ほどまで加熱され、磁場を形成する。この磁場は回転するブラックホールによって結び目が作られ、張力によってこの結び目が切れたときに、内側にため込んでいたエネルギーを放出する。このエネルギーがまわりのガスを温め、高エネルギー電子を含んだ質量放出を行う。この高エネルギー電子はX線の源にもなる。

 

 I ズウィッキー1銀河から観測されるX線フレアーは強大であるが、ガス円盤からブラックホールに落ち込むガスによって反射されるX線は、ブラックホール周りのゆがんだ空間によって経路が曲げられ、通常のX線よりも観測が遅れることになる。またガス円盤によって反射されるX線はわずかな量であるがために、かすかな光としてしかとらえられない。

 

 X線の光エコーは、ブラックホール周りの円盤で反射された場所、そしてどのような経路をとり、どのような現象が起きたかによって光の波長が変化し、特徴的な色を持つことになる。研究チームはこのような光の波長の変化を捉えて、ブラックホール周りの3Dマップを作成することを今後の目標としている。

 

 また別の課題として、コロナ質量放出がどのようにしてX線フレアーをもたらすかの謎を解くことがあげられるとしている。この問題を解決するために、XMM-Newton宇宙望遠鏡による観測、および今後打ち上げ予定のAthena宇宙望遠鏡がその謎を解く鍵になるとしている。

 

*注1 X線フレアーからの光は、直接地球に届くものだけでなく、ブラックホール周りのガス円盤からブラックホールに落ち込むガスによって反射されて地球に届くものもある。こうした反射は「光のエコー(こだま)」として観測されるが、エコーは直接届く光よりも長い距離を進むため、それだけ地球に届くのが遅くなる。

 

 

図1 ( C ) ESA

ブラックホールから放出されるX線エコーのイメージ図。I ズウィッキー1中心の巨大ブラックホールの直径は3000万kmであり、質量は太陽質量の1000万倍である。このブラックホールからコロナ質量放出が行われ、X線フレアーが起きる。X線はブラックホール周りのガス円盤からブラックホールに落ち込むガスによって反射され、光エコーが引き起こされる。