8月14日

 

 

 九州大学大学院理学研究院の町田正博准教授、国立天文台の松下祐子研究員らの研究グループは7月26日、OMC 2/FIR 6Bと呼ばれる原始星(オリオン大星雲内にある幼年期の星)周囲をアルマ望遠鏡で観測した結果、高速で回転しながら噴出するジェットを検出することに成功したと発表した(図1)。回転の速度と角運動量という回転に関係する物理量のおいては、これまで回転が検出されたジェットの中で最も大きく、観測史上最大の回転を持つジェットだとしている。

 

 これまでの研究において、星の誕生時にジェットというガスの噴出現象が起こることがわかっているが、何故ジェットが現れるかについては今もなお明確ではない。

 

 研究グループはジェットの回転を詳細に観測し、理論モデルと組み合わせることでジェットの駆動機構とその役割を特定することとした。観測対象はFIR 6Bという原始星(オリオン大星雲内にある幼年期の星)であり、その周囲をALMA望遠鏡で観測することとした。観測の結果、高速で回転しながら噴出するジェットを検出することに成功した。回転の速度と角運動量という回転に関係する物理量においては、これまで回転が検出されたジェットの中で最も大きく、観測史上最大の回転を持つジェットだとしている。回転速度と角運動量は従来の理論予想を遥かに超えた大きさであり、磁気駆動というモデルでのみ説明可能である(図2)。このジェットの回転は、原始星から半径3天文単位にある円盤の回転を磁場の力で遥か遠く100天文単位にある物質に伝え強制的に回転させることで実現できると研究グループは説明している。松下研究員は「ジェットの回転を検出することは難しく、ダメ元で結果を出してみたところ綺麗な回転が見えたのでとても感動しました。また回転速度や角運動量が他の星からのジェットや理論予測よりも大きいことにも驚き、ワクワクしながら解析を行った思い出があります。」とコメントしている。

 

 さらに、今回の研究からジェットは磁場の効果によって出現するということが明確になった。またジェットによって円盤のガスは回転(角運動量)を失って中心に落下し、原始星が大人の星に成長させる役割を果たすことも明らかになった。このような超高速回転ジェットは星が幼年期から大人の段階に移り変わる短い時間にだけ出現するとしており、この研究によって星の成長とジェットの関係が明らかになった。

 

 

図1 ( C ) 九州大学、国立天文台

原始星FIR 6B(図の右下)から噴出する高速ジェット(左上から右下に分布する構造)と模式図(左下)。ジェットのカラーは視線方向の速度でほぼ回転速度に対応する。左上方向に伝搬するジェットの速度は400 km/s(時速144万km)。

 

 

図2 ( C ) 九州大学、国立天文台

右下の円盤の中心に存在する明るい点が原始星(赤ちゃん星)。円盤の左上と右下から超高速回転ジェットが吹き出している。ジェットの中のオレンジ色の線は磁力線を示しており、ジェットは磁場と回転の力によって原始星近傍の円盤から駆動する。