8月21日

 

 

 カリフォルニア工科大学のMichael Kuhn氏を中心とする研究グループは17日、天の川銀河において、若い星と星の材料となるガスが天の川銀河の渦状腕の一つである、いて腕を突き抜けている現場を発見したと発表した。天の川銀河の重力や、回転による剪断力によってこのような構造が生まれている可能性があるとしている。このように若い星、ガスが渦状腕を突き抜けている現場が発見されたのは今回が初めてである。渦状腕を突き抜ける星とガスの現場は3000光年にわたって延びている(図1)。

 

 これまで天の川銀河における渦状腕の形や大きさについてはおおまかなことがわかっているが、まだまだわからないことが多い。地球が天の川銀河の内部にあることから、天の川銀河の正確な構造を把握するのは困難であると考えられている。

 

 天の川銀河は渦巻銀河であるが、渦状腕の性質は“ピッチ角”と呼ばれる指標で特徴づけられる。渦状腕がどれだけ銀河の中をきつく巻いていくかという指標である。例えば円であれば、銀河中心に向けてまきついていくことはないため、ピッチ角は0である。いて腕のピッチ角は12度であることがわかっている。

 

 今回研究チームは天の川銀河の渦状腕の構造を正確に把握すべく、いて腕に着目して研究を進めることとし、2020年1月に引退したNASAのスピッツアー望遠鏡のデータを用いて解析を行った。スピッツアー望遠鏡は、新しく生まれた星やガスを赤外線で捉えている。またESAが打ち上げた天文衛星Gaiaのデータも用いた。これら2つの望遠鏡のデータを基に解析を行った結果、いて腕を突き抜ける若い星やガスの構造を発見することに成功した(図1)。これらの若い星やガスは、同じ方向を同じ速度で動いていることが判明した。またこの構造は、いて腕を突き抜けているということもあり、ピッチ角が60度であることがわかった。天の川銀河の重力や回転による剪断力によって同じ時間、同じ場所においてこの構造が生まれたと研究チームは推測している。

 

 天の川銀河の構造を解明するためには、天の川銀河を構成する個々の星の動きを捉えることが重要であり、今後の課題でもある。研究チームの一人であるロバート・ベンジャミン氏は「今回の研究成果は、天の川銀河の渦巻構造において多くの不確定性があることを示唆しており、より深く理解していくためには、より詳細に渦巻構造を見ていく必要がある」とコメントしている。

 

 

図1 ( C ) NASA/カリフォルニア工科大学

天の川銀河の渦状腕のイラスト。今回の研究では渦状腕の一つである、いて腕を若い星やガスが突き抜ける構造が発見された。右上の枠において、この構造の大きさと、各渦状腕の太陽からの距離が示されている。オレンジ色の星のマークは星形成領域を示しており、数十~数千単位で星が形成されている。