9月4日

 

 

 スミソニアン天体物理観測所のDaniel schwartz氏を中心とする研究グループは8月31日、宇宙から誕生してから20億年ほどの距離にあるMG B2016+112と呼ばれる天体からのチャンドラX線望遠鏡によって観測されたX線データを解析した結果、この天体が2つの超巨大ブラックホールで構成される、もしくは1つの超巨大ブラックホールとそこから噴き出すジェットで構成された天体であることが判明したと発表した。チャンドラX線望遠鏡では3つのX線像を観測することに成功し、そのうちの2つの像は1つのX線源から2つの曲げられた像、もう片方の像は1つのX線源から300倍に増光されて得られた像であるとしている(図1)。X線の重力レンズ効果を用いた天体観測は、新たな天体の観測手法として今後も活用されることが期待される。

 

 MG B2016+112はかつて電波によって観測された初期宇宙における銀河団であり、2019年にはVLBI望遠鏡の観測によってMG B2016+112は200PCほど離れた2つの電波源で構成されることが判明した。Daniel Schwartz氏は電波における重力レンズ効果を元にVLBI望遠鏡の電波データを解析したところ、MG B2016+112は2つの超巨大ブラックホールで構成され、1つの超巨大ブラックホールからはジェットが噴き出していると推測した。

 

 今回MG B2016+112の詳細な姿を捉えるべく、Daniel Schwartz氏を中心とする研究グループはチャンドラX線望遠鏡によって観測されたX線データを解析することとした。その結果、3つのX線像を見つけ出すことに成功し、そのうちの2つが重力レンズ効果によって1つのX線源から曲げられた像、そしてもう1つの像は、X線源から300倍に増光された像であることが判明した(図1)。観測された重力レンズ効果を受けたX線をたどってもとのX線源の正体を探ると、電波望遠鏡によるデータからの解析結果とは異なり、MG B2016+112は2つの超巨大ブラックホールのペア、もしくは1つの超巨大ブラックホールとそこから噴き出すパーセクスケールのジェットで構成される天体であるとの結論に至った。

 

 重力レンズ効果は光を曲げるだけでなく、かすかな光を増光する効果もあるため、遠くにある天体でも詳細に捉えることが可能である。今回の研究のようにX線と重力レンズ効果を組み合わせた観測手法は画期的であり、今後も初期宇宙における天体観測が活発に行われることが期待される。

 

 

図1 ( C )  Illustration: NASA/CXC/M. Weiss; X-ray Image (inset): NASA/CXC/SAO/D. Schwartz et al.

チャンドラX線望遠鏡で観測されたMG B2016+112の像(左上の枠内)とMG B2016+112のX線源がレンズ天体(intervening galaxy)によって曲げられて観測される様子のイメージ図。イメージ図に示してある通り、初期宇宙にある紫色の天体から出たX線がレンズ天体によって曲げられて2つの像(A、B)が観測される。そして青色の天体から出たかすかな光は、レンズ天体によって300倍に増光されて観測される(C)。