9月18日

 

 

 イタリア・ボローニャ大学の Jianxing Chen氏を中心とする研究グループは6日、ハッブル宇宙望遠鏡による球状星団M3、M13の中に存在する白色矮星の観測を行い、両球状星団に存在する白色矮星の状態を比較した結果、M13に存在する白色矮星の中に通常の白色矮星と比べて老齢化を遅らせる効果のある白色矮星が存在することが判明したと発表した。外層表面で水素を保持し続けることで、水素の熱的核反応によって老齢化を防ぎ、若返りが行われるとしている。白色矮星はそれを構成する天体の年齢を特定するのに役立つが、今回発見された老齢化を遅らせる白色矮星は、通常の白色矮星よりも10億年若返らせる効果がある。したがって今回の研究成果は、白色矮星を用いた天体の年齢推定の研究に影響を及ぼす重要な成果である。

 

 白色矮星は、星が生涯の最終ステージにおいて水素で構成された外層を脱ぎ捨てることでコアが露出した星のことであり、冷却過程を遅らせる段階にある。宇宙において白色矮星は普遍的に存在し、星の98%が白色矮星として星の生涯を終える。例えば太陽は100億年の寿命があると考えられており、現在は46億年経過しているが、将来的には太陽系中心付近の惑星を巻き込みながら赤色巨星に成長し、地球表面をやけこがすような存在になると考えられている。そして外層を脱ぎ捨てることでコアが露出した白色矮星に成長する。白色矮星における冷却過程を研究することは、星の進化過程における白色矮星段階のことを知ることだけでなく、最初の段階を知ることにもつながるとされている。

 

 研究チームは白色矮星の進化過程の物理的描像を研究すべく、球状星団M3とM13(*注1)を観測して、両者の冷却段階にある白色矮星の状態を比較して研究することとした。両者の球状星団は同じ年齢、同じメタリシティー(金属量比)(*注2)を持つなど、同じような物理的指標を持っている。しかしHR図上において進化段階をたどっていくと、両者には違いが見られるようになり、M13ではM3に比べて、水平分枝線が青い星側に寄ることがわかっている。つまりM13の方が温度の高い星の集まりであるということである。このような背景から研究チームは白色矮星の冷却過程を研究する上でM3とM13を比較することで何かが見えるのではないかと考えた。

 

 実際にハッブル宇宙望遠鏡を用いて近紫外線でM3とM13の観測を行い球状星団内の700以上の白色矮星を比較した。その結果、M3は通常の白色矮星と同じような冷却過程をたどるのに対して、M13では通常の冷却過程を行うものと、外層において水素を保持する構造を持つ白色矮星が混在していることがわかった。M13において外層において水素を保持する白色矮星は、その水素を燃焼し続けることで、冷却過程を遅らせるだろうと研究チームは考えている。観測データをコンピュータシミュレーションに反映させて、M13の星の進化過程をたどると、およそ70%の白色矮星が外層表面における水素を燃焼し続けて、冷却過程を遅らせるという結果も得ることに成功した。

 

 今回の研究成果は天の川銀河における星の年齢推定に影響を与える。とくに球状星団や散開星団の年齢推定に大きな影響を与え、10億年ほど老齢化するのを遅らせる効果があるとされている。

 

 共同研究者であるFrancesco Ferraro氏は、「今回の発見は従来の白色矮星の冷却過程モデルに異議を唱えるものであり、星の年老い方について新たな知見をもたらした。今後はM13における白色矮星において、どのようにすれば外層に水素を持つ構造ができるのかについて調査する予定である」と今後の抱負についてコメントしている。

 

*注1 M3はりょうけん座にある約50万個の星で構成された球状星団であり、M13はヘラクレス座にある数万個の星で構成された球状星団である。

 

*注2 金属量比とは化学成分のうち、水素とヘリウム以外の元素の構成比を表す。宇宙全体の化学成分はほとんど水素とヘリウムであるため、金属量比は低い。例えば太陽の化学成分の割合は、水素が74.9%、ヘリウムが23.8%であり、残りの1.3%はその他の化学成分である。球状星団は天の川銀河のハローに存在し、メタリシティーは低いと考えられている。メタリシティーから天体の起源を知り、年齢を推定する研究が盛んに行われている。

 

 

 

( C ) ESA/Hubble & NASA, G. Piotto et al.

ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された球状星団M13とM3。左は2010年に撮影されたM13であり、右は2019年に撮影されたM3。