9月25日

 

 

 マサチューセッツ工科大学のKate Whitaker助教授を中心とする研究グループは22日、ハッブル宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡を組み合わせて、銀河の星形成活動が最も盛んである宇宙が生まれてから30億年ほど経過した初期宇宙を観測した結果、星形成に必要な冷たい水素ガスを持たない6個の“死の銀河”を発見することに成功したと発表した(図1)。重力レンズ効果(*注1)による増光効果を利用した発見であり、今後の新たな観測手段の開発によって詳細な姿が映し出されることが期待される。

 

 宇宙が生まれてから30億年ほどの時代は、全ての銀河において星形成活動が活発であると理論的には考えられている。しかしこの時代の宇宙を観測するためには高性能な宇宙望遠鏡が必要であり、これまでに銀河の観測例があまりなかった。ハッブル宇宙望遠鏡は直接的に星形成銀河を観測することが可能であり、アルマ望遠鏡は冷たいダストを観測することで、星の材料となる冷たい水素ガスを持つ銀河を観測することができる。

 

 初期宇宙の銀河を発見することを目的としたREQUIEM(Resolving QUIEscent Magnified Galaxies At High Redshift)プログラムが存在し、研究チームはこのプログラムを通じて、初期宇宙の銀河を探ることとした。ピンポイントで銀河を発見することができるハッブル宇宙望遠鏡と星形成の材料となる冷たい水素ガスを捉えることができるアルマ望遠鏡を組み合わせて観測を行うこととした。さらに重力レンズによる増光効果を用いることで、かすかな光でも捉えることが可能となり、この効果を用いることとした。実際に観測を行った結果、6個の星形成を起こさない“死の銀河”を発見することに成功した。

 

 研究チームは“死の銀河”が他の矮小銀河との衝突や、水素ガスの質量降着によって再び星形成活動を起こすことはないと考えている。このことを説明する1つの説としては、銀河中心の超巨大ブラックホールが水素ガスを吸収して、ジェットとして放出して温めていることである。水素ガスが温められるとイオン化して、星形成には適さない。もう一つの説は、銀河表面から水素ガスが放出されて、水素ガスが降着するのを妨げているという説である。

 

 Whitaker氏は「銀河が冷たい水素ガスを使い果たしたとしても、冷たい水素ガスが供給される可能性はあり、なぜそのガスの供給が絶たれているのか疑問として残る。その疑問を解決するための新たな手段を探していく。」と今後の抱負についてコメントしている。

 

*注1 遠くの天体から出た光が、途中にある銀河や銀河団の強い重力場によって曲げられる現象のこと。光源が何倍にも増光されたり、細長くゆがんだ像や多重像として観測される場合は、強い重力レンズ効果と呼ばれる。

 

 

図1( C ) Joseph DePasquale (STScI)

ハッブル宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡によって発見された「死の銀河」6個のうちの2個を示しており、上側はMRG-M1341銀河団、下側はMRG-M2129銀河団である(複合カラー)。右側は銀河の拡大図であり、黄色が重力レンズによって増工された星の光、紫色がアルマ望遠鏡によって観測された冷たいダストの分布である。冷たいダストの分布は星形成に必要な冷たい水素ガスがあることを示している。MRG-M1341銀河団では、冷たい水素ガスを持たない銀河、冷たい水素が豊富にあり星形成活動が活発な銀河が分かれている。その一方でMRG-M2129銀河では銀河中央に冷たい水素ガス分布があり、外側において星形成が行われていない領域があることがわかる。