10月10日

 

 

 アストロバイオロジーセンターと東京大学の研究者を中心とする研究チームは9月26日、すばる望遠鏡の近赤外分光器 IRD 等を用いた観測により、公転周期が1日未満の「超短周期惑星」を太陽系外の低温の恒星まわりで発見し、その内部組成が地球と同じように主に鉄と岩石からなることを明らかにしたと発表した(図1)。2つの低温度星(TOI-1634bとTOI-1685b(*注1))のまわりで発見された惑星 はいずれも地球の約1.5~2倍のサイズのスーパーアース (*注2) に相当し、特に、TOI-1634b まわりの惑星はこれまで見つかっている超短周期惑星の中でも最大の半径(1.8 地球半径) と質量 (10 地球質量) を持つ地球型惑星の1つであることが判明した。この大きさの惑星は岩石惑星とガス惑星の境界にあり、特に低温度星のまわりでの発見数はこれまでにあまりない。今回の研究成果は「1年」が地球の1日の長さに満たない惑星がどのように形成されたかを今後調査する上で重要な研究成果であるとしている。

 

 太陽系外惑星 のうちの1%程度は、公転周期が1日未満の惑星 (超短周期惑星) であることが、これまでの観測から明らかになっている。超短周期惑星は、外側の軌道で形成されたものが、他の惑星との相互作用などによって、内側の軌道へ移動したと考えられており、多様な惑星形成を理解する上で、希少な天体である。またこれまでに観測された超短周期惑星のほとんどは、半径が地球の 1.5 倍以下の小型惑星であり、内部組成は主に鉄と岩石でできた地球と似た惑星であることが知られている。ただしこのように精査された超短周期惑星のほとんどは、太陽に似た恒星(太陽型星)のまわりでのみ知られており、低温度・小質量の恒星のまわりでの観測例はわずかである。低温度星は、小型の惑星を複数個持つ頻度が高いことが知られているため、超短周期惑星が存在する頻度も高いと考えられている。低温度星まわりの超短周期惑星の特徴を詳しく調べることで、超短周期惑星の起源について全般的な理解が進むことが期待される。

 

 研究チームは、超短周期惑星の特徴を研究すべく、NASAのトランジット系外惑星探査衛星「TESS」で検出されたトランジット惑星候補(*注3)を持つ2つの低温度星 TOI-1634 と TOI-1685 に注目することとした。これらの星の質量は太陽の半分程度であり、有効温度は3500K程度とされている。TESS のデータの独自解析と多色同時撮像カメラ MuSCAT シリーズ等によるトランジットの追観測を実施した上で、すばる望遠鏡の赤外線分光器IRD(*注4)による分光観測を実施した。その結果、TOI-1634 と TOI-1685 のまわりを、実際に超短周期惑星がそれぞれ0.989 日(TOI-1634b)と0.669 日(TOI-1685b)の周期で公転していることを発見した。さらに視線速度変化の振幅から、TOI-1634b と TOI-1685b が、それぞれ地球の約 10 倍と約 3.4 倍の質量を持つことが明らかになった(*注5)。この惑星質量と、トランジット観測から求められた惑星半径(TOI-1634b が約 1.8 地球半径、TOI-1685b が約 1.5 地球半径)をもとに惑星の組成を理論的に推定したところ、どちらの惑星も地球と同様に主に鉄と岩石を中心とした内部組成を持つことがわかった (図2)。

 

 TOI-1634b はこのように地球と似た内部組成を持つことが確認された超短周期惑星の中でも半径・質量が最大の惑星の一つで、このような惑星が太陽よりずっと軽い星のまわりで見つかったのは非常に興味深いことであるとしている。「質量-半径」の関係(図2) からは、両惑星に厚い水素の大気がないこともわかった。原始惑星系円盤のガスからなる原始大気が残されていない両惑星では、惑星で放出されたガスからなる2次大気が形成されている可能性があるとしている。

 

 今後の研究の展望について、平野照幸助教 (自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター / 国立天文台ハワイ観測所) は「今後、本研究で見つかった惑星系をジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)などで観測し、惑星大気や詳細な軌道等を調査することで、未だ謎の多い超短周期惑星の起源の解明に近づくことが期待されます。また、TESS で同定された惑星候補天体を IRD で集中的に追観測するプロジェクトは現在も進行中で、1、2年の間に、多くのユニークな惑星が IRD で確認されるはずです」とコメントしている。

 

*注1 TOI-1634bとTOI-1685bは共に赤色矮星であり、それぞれペルセウス座方向約114、122光年に位置する。

 

*注2 地球よりも大きな惑星で、質量は地球のおよそ10倍以下、直径は地球のおよそ2倍以下の系外惑星のことをいう。太陽系にはこのような重さ・大きさの惑星は存在しないため、系外惑星の観測によって初めてこのような惑星が存在することがわかった。

 

*注3 トランジットとは、恒星の前を惑星が通過するために、恒星が周期的に暗くみえる現象で、トランジットが観測される系外惑星系をトランジット惑星系と呼ぶ。TESS を始めとするトランジット探査では、大規模な測光モニター観測によりトランジットのような減光が数多く検出されるが、その中には「食連星」等による偽検出が含まれる。TESS で検出された「トランジット惑星候補」に対して、他の望遠鏡を用いた追観測を実施することで初めて本物のトランジット惑星であることが確認される。

 

*注4 IRD は恒星の視線方向の速度 (視線速度) を精密に測定する分光器で、可視光よりも赤外線で明るく見える低温度星の観測に最適化されたユニークな観測装置である。

 

*注5 恒星のまわりに惑星があると、惑星の重力の影響で恒星がわずかにふらつく。このふらつきを、恒星の視線速度の周期的な変化として捉えるのが視線速度法で、惑星の質量が大きいほど、視線速度変化の振幅は大きくなる。見つかった2つの惑星の質量は、IRD による追観測によって決定された。

 

 

図1 ( C ) 自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター

本研究で発見された地球型惑星の大きさを比べたイメージイラスト。TOI-1685b は地球の 1.5 倍、TOI-1634b は 1.8 倍の直径である(右のTOI-1684bの表記は誤り)。どちらの惑星も太陽よりも温度の低い恒星のまわりにあるため、赤っぽい光に照らされている。

 

 

 

図2 ( C ) アストロバイオロジーセンター

これまでに見つかっている系外惑星のうち、3地球半径以下の惑星の、質量と半径の分布。従来知られていた超短周期惑星は青または紫、今回新たに発見された2つの超短周期惑星は赤で示されている (青は太陽型星まわり、紫は低温のM型矮星まわりの超短周期惑星)。灰色の点は公転周期1日以上の惑星である。理論計算による惑星の内部組成ごとの質量と半径の関係が異なる色の曲線で示されていて、図示されている超短周期惑星はいずれも地球の組成(質量比で岩石 67.5%、鉄 32.5%)とほぼ一致していることがわかる。一方、図の右上に分布する半径の大きな惑星(灰色)は、木星や海王星のように外側に水素大気を持つモデルで説明することが可能である。