10月16日

 

 

 スウェーデン王立工科大学のLorenz Roth氏を中心とする研究チームは14日、ハッブル宇宙望遠鏡による過去の木星衛星エウロパの紫外線による観測データを解析した結果、エウロパの大気が水蒸気を含むことが判明したと発表した。大気において豊富な酸素を検知したことから今回の結論に至ったとしている。エウロパにおける生物生存可能性や、エウロパに似た他の太陽系外惑星における生物生存可能性を議論する上で重要な研究成果であるとしている。

 

 エウロパは木星の79ある衛星のうちの一つであり、木星から6番目に近い衛星であるとともに、太陽系において6番目に大きな衛星である。太陽系の準惑星である冥王星よりも大きな氷の球体であり、表面にはひびが入っている(図1)。表面温度は-170℃であり、大気は希薄であるとされている。このような生物が住むには過酷な環境であるとしても、世の研究者たちはエウロパの氷表面地下には広大な海が広がり、地球外生命体が住んでいると推測してきた。

 

 最近の研究においてもう一つの木星衛星であるガニメデにおいて、水蒸気が存在することを示す研究成果が発表されていた。研究チームは木星のもう一つの衛星であるエウロパにも水蒸気が存在するのではないかと考え、ガニメデにおける水蒸気の発見時と同じ手段を用いて水蒸気の存在可否を確かめることとした。観測データは1999年、2012、2014、2015年のハッブル宇宙望遠鏡によって観測された紫外線データを用いることとした。

 

 解析の結果、エウロパの反公転方向に面した半球(trailing hemisphere)において水蒸気があることが判明した。紫外線データを解析することで水を構成する酸素が大気に豊富に含まれること、違う波長の観測データにおいても酸素に対する輝線が強く出ていたことからこのような結論に至った。その一方で公転面方向に面した半球においては、水蒸気の存在が見られなかった。このように片方の半球だけに水蒸気が存在するという、水蒸気分布の非対称性については、過去にコンピュータシミュレーションによって示唆されていたが、実際の観測例がなかった。また水蒸気は氷表面地下にある水の海から蒸発したものであると考えられているが、太陽光によって温められて蒸発しているのではなく、木星の強大な重力によって起こる地層の褶曲によって温められると考えられている。Lorenz Roth氏は「木星衛星であるエウロパの反公転方向に面した半球と、ガニメデにおいて水蒸気が見つかったことで、氷衛星の表面大気の理解が進んだ。特にエウロパにおいては表面温度がとても低いにも関わらず、大気において安定的な水蒸気が豊富に存在することが判明したことに驚いている」とコメントしている。

 

 これまでのエウロパの水蒸気の存在可否の研究は、氷表面から一時的に上昇する水蒸気を頼りに行っていたが、地球の間欠泉に似た事象であり、継続的に水蒸気が存在するかどうかを確かめることができなかった。今回の研究では1999年から2015の間の複数年のデータを基にして解析を行っていることから、水蒸気が継続的に存在することを確かめることが可能となった。

 

 ESA(欧州宇宙機関)のJUICEミッションによって新たな人工衛星が2022年に打ち上げられ、2031年に木星に到着する予定である。木星に到着してからおよそ3年間に渡る詳細な観測が予定されており、木星やその他の衛星の調査が行われ、生物生存可能性についても調査が行われる。NASAのEuropa Clipperも同様のミッションを行う予定である。

 

 今後の人工衛星による調査によって新たな木星衛星の詳細が明らかになることで、木星に似た太陽系外惑星の姿が明らかになることも期待される。

 

 

図1 ( C ) NASA/JPL-Caltech/SETI Institute

1990年代後半にNASAの木星探査機ガリレオによって撮影されたエウロパの姿。