10月30日

 

 

 アメリカ・ハーバード・スミソニアン天体物理学研究センターのRosanne Di Stefano氏を中心とする研究チームは25日、ESAのXMM-NewtonとNASAのチャンドラX線望遠鏡のX線データを用いて、M51銀河(子持ち渦巻銀河)(*注1)において、土星サイズの惑星候補天体を発見したと発表した。惑星候補天体は主星のまわりをおよそ70年で公転するとしている。天の川銀河外において惑星候補天体が発見されたのは史上初めてであり、X線データを用いた惑星候補天体探索の新たな手法が開発されたこととなる。しかし、実際に惑星であると断定するには更なる観測が必要であり、今後の課題である。

 

 科学者たちは、天の川銀河外において確かに惑星が存在するだろうとこれまで考えてきたが、実際の観測で確かめられたことがなかった。天の川銀河外の銀河の光は、これまでの望遠鏡では狭い範囲でしかとらえることができず、星とそれ以外の天体を区別することが困難であったからである。ところがXMMニュートン望遠鏡などでX線の光を観測すると、そもそもX線で光る天体自体が少ないため、X線で明るく輝く天体同士を区別することが容易である。

 

 研究チームはX線データを用いて銀河外の惑星を確かめることとした。まずは惑星系をなす主星を探さなければならない。X線で明るく輝く天体は非常にエネルギーが高いブラックホールや中性子星、パルサー、これらを組み合わせた連星(以下X線連星)などが考えられる。そもそもX線で輝く天体が、なぜエネルギーが高いかというと、これらの天体の伴星となる天体から強大な重力で物質を引き寄せているからである。可視光でとても強い光を放つ天体は、たいていこれらのどれかに該当し、X線でも観測がなされれば、それが確定する。今回研究チームは、惑星系の主星としてX線連星を採用することとした。X線連星は太陽の100万倍の明るさで輝き、非常に狭い範囲のX線を観測することとなる。もしX線連星からのX線データを時間軸に沿ってみたときに、影が存在すれば、それはX線連星の前を惑星が通過したこととなり、惑星が存在する可能性を見出すことができる。これは天の川銀河における太陽系外惑星を探索するときに用いられるトランジット法と原理は同じである。

 

 研究チームはチャンドラX線望遠鏡とXMMニュートンのX線データを用いて3つの銀河を対象として実際に解析した結果、M51子持ち渦巻銀河において、数時間単位のX線の影を発見することに成功した。つまり惑星候補天体を発見したこととなる。この惑星候補天体は土星の大きさとほぼ同じであり、X線連星まわりを、地球と土星の間の距離を保ちながら、およそ70年周期で公転しているとしている。また十分な量の放射線を放出しているため、生物が生存するのに適した惑星ではない。しかしここで重要なのは、この惑星候補天体が本当にM51銀河内の天体であるのかどうかを確かめることである。そこで研究チームは今回観測されたチャンドラX線望遠鏡と、XMMニュートンにおけるX線の影の深さを、そのほかの影を作る要因をモデルとした影の深さと比較することとした。その結果、今回発見された惑星候補天体が確かにM51銀河内に存在することが確かめられたとしている。また観測データから今回の惑星候補天体が、非常に若い大きな星であることが確かめられた。さらに、影の表面面積がはっきりとしていることから、ガスやダストの雲ではなく惑星候補天体が主星の前を通過したことが確かめられたとしている。コンピュータによる数値シミュレーションによっても、今回のX線の影が確かに主星の前を通過したときに現れるものであると確認された。

 

 今回の研究成果は、X線バイナリーの前を1回だけ惑星候補天体が通過しただけであり、複数回のX線の影が観測されたわけではないため、本当に惑星かどうかであるかを今後も確認していく必要がある。Rosanne氏は「今回の研究成果は、天の川銀河外における惑星を探索するのにX線データのトランジット法という新たな手法が役に立つことがわかった。今後はX線望遠鏡によるデータを更に解析していくことで、惑星の存在を確固たるものにする。」と今後の抱負についてコメントしている。

 

*注1 りょうけん座方向約2,100万年光年の位置にあり、大小2つの銀河がつながっているため、子持ち銀河と名付けられている。

 

 

( C ) X-ray: NASA/CXC/SAO/R. DiStefano, et al.; Optical: NASA/ESA/STScI/Grendler

M51銀河のX線と可視光の複合写真(X線はチャンドラX線望遠鏡、可視光はハッブル宇宙望遠鏡によるもの)。四角で囲ったところに今回発見された惑星候補天体が存在する。