11月6日

 

 

 イギリス・ハートフォードシャー大学のMaximilien Franco氏を中心とする国際研究チームは4日、アルマ望遠鏡とESAのハーシェル宇宙望遠鏡の観測データを基に、宇宙誕生から14億年の古代のNGP-190387銀河のデータを解析した結果、フッ素を発見することに成功したと発表した。人間の歯や骨の材料となり、歯磨き粉の材料ともなるフッ素であるが、今回の発見はこれまでで最も遠い宇宙においてフッ素を発見したこととなり、フッ素がどのようにして宇宙で作られるかの研究を進めるうえで重要な成果であるとしている。Franco氏は「NGP-190387にあるウォルフライエ星(*注1)が激しく爆発して死を迎える際にフッ素が生成され、このフッ素が今日の歯の健康を支えている」と冗談まじりのコメントを発表している。

 

 星形成過程において星のコア部分においてフッ素は作られると考えられてきたが、これまでにどのようにしてフッ素が生成されているのかを解明することができていない。またどのようなタイプの星でフッ素が作られるのかどうかも不明であった。天の川銀河においては宇宙誕生から135億年の星においてフッ素が形成されていることがこれまでに確認されている。しかし研究チームが宇宙初期においてフッ素が形成されているかどうかを確認すべく、遠い宇宙にあるクウェーサーや、銀河団中心にある巨大ブラックホールまわりの明るい天体などの観測を行ってきたが、宇宙初期における星形成過程にある銀河において、フッ素が確認されたことは一度もなかった。

 

 研究チームは宇宙におけるフッ素の起源に着目し、NGP-190387銀河の観測データを解析することとした。NGP-190387は宇宙誕生から14億年という遠い宇宙に存在し、これは宇宙年齢140億年の10%に相当する。実際に解析を行った結果、NGP-190387においてフッ素の化合物であるフッ化水素が存在することが確認された。星が死を迎えるときにコア部分でフッ素が生成され、爆発現象と共にフッ素が飛び散ることから、今回の発見は銀河内において早期に生まれた星が早期に死を迎えてフッ素を生み出すことを示唆している。このタイプの星はウォルフ・ライエ星であると、研究チームは指摘している。ウォルフ・ライエ星は、巨大な星で数百万年程度で生涯を終える。実はウォルフ・ライエ星がフッ素の起源であることは以前から推定されていたが、今回の研究成果によってそれが確固たるものになったとしている。フッ素の起源となる他の星のタイプとして、太陽の数倍の質量を持つ漸近巨星分枝星(*注2)が考えられていたが、このタイプの星は生涯を終えるのに数十億年かかると考えられているため、銀河の年齢14億年に対して整合性がとれず、フッ素の起源とはなりえない。

 

 「天の川銀河で見つかっているフッ素は、宇宙誕生から135億年経過した星でみられたものであり、宇宙誕生から14億年でフッ素が見つかったのはとても驚くべきことである」と研究チームの一人である小林千晶氏(ハートフォードシャー大学教授)はコメントしている。

 

 「チリに建設中のELT望遠鏡によってNGP-190387銀河の詳細な観測が行われることで、更なる重要な観測結果が得られることが期待される。」と 研究チームの一人であるChentao Yang氏はコメントしている。

 

*注1 高温で高光度の恒星、HR図上でもっとも左上の領域を占める。1867年にウォルフ(C.J.E. Wolf)とライエ(G. Rayet)によって幅の広い輝線だらけのスペクトルを示す奇妙な星として発見された。大質量星のなかでも特に質量の大きなものが進化し、水素の豊富な外層を失った段階に相当すると考えられており、実際に特異な元素組成を示す。

 

*注2 中心部でのヘリウム燃焼を終え、中心核の周りでヘリウムや水素の殻燃焼を行う段階にある中小質量星がHR図上で形成する系列。質量が太陽の約8倍より小さい場合には、ヘリウム燃焼で生じた炭素と酸素からなる中心核で電子が縮退し、次の核融合反応が起こらない。かわりに、ヘリウム層の外側で水素の殻燃焼が生じ、星は膨張する。これにより、HR図上で赤色巨星分枝に近い系列が形づくられ、漸近巨星分枝と呼ばれる。

 

 

( C ) ESO/M. Kornmesser

NGC-190387銀河のイメージ図。

 

 

( C ) ESO/L. Calçada

ウォルフ・ライエ星のイメージ図。NGC-190387銀河においてフッ素が見つかったが、そのフッ素はウォルフ・ライエ星が星の生涯を終えるときのスーパーノヴァ爆発現象によってもたらされたものであると研究チームは考えている。