11月13日

 

 

 リヴァプール・ジョン・ムーアズ大学のSara Saracino氏を中心とする国際研究チームは11日、VLT望遠鏡に搭載されたマルチユニット分光探査機(MUSE)による観測データを用いて、大マゼラン雲内にある数千個の星からなる若い星団NGC1850内の星の視線速度データを解析した結果、太陽質量の10倍ほどの質量を持つブラックホールを発見したと発表した。ブラックホールの重力の影響を受ける星の視線速度情報を用いてブラックホールを探し出すという手法を用いている。今回の手法は過去にも遠い銀河内において用いられた手法であるが、この方法を用いて16万光年離れた場所にある大マゼラン雲のような天の川近傍銀河でブラックホールが見つかったのは今回が初めてであるとしている。今回の研究成果によって今後もこの方法を用いて天の川銀河内、天の川近傍のブラックホールが見つかることが期待されており、ブラックホールがどのように形成、進化してきたのかを解明する上で大きな鍵を握るとしている。

 

 ブラックホールを探査する方法として、ブラックホールが物質を飲み込むときに放射するX線を捉えることや、ブラックホール同士の衝突もしくはブラックホールと中性子星の衝突によって発生する重力波を捉える方法があるが、これらの研究方法で“恒星質量”程度のブラックホールの存在が確認されたことはこれまでにほとんど例がなかった。

 

 恒星質量程度のブラックホールはブラックホールの中で大部分を占めていると考えられているため、恒星質量ブラックホールを見つけ出すことは、ブラックホールの形成・進化過程を解明する上で重要であると考えられている。そこで恒星質量ブラックホールを見つけ出す方法として、そのまわりの星の力学的な量(今回の研究でいえば視線速度)に着目する方法を研究チームは考えた。今回はVLT望遠鏡に搭載されたMUSE(マルチユニット分光探査機)を用いてNGC1850内にあるブラックホールを探し出すこととした。

 

 実際にMUSE(マルチユニット分光探査機)のデータを用いてNGC1850内の星の視線速度情報のデータを解析した結果、恒星質量ブラックホールを発見することに成功した。ブラックホールが確かに存在するという決定的な証拠になったものは、ブラックホールの重力の影響を受けているとみられる太陽質量の5倍程度の恒星が軌道運動をしていたことである。Sara Saracino氏は「シャーロックホームズが犯人のミスステップから犯人を見つけ出すことに成功するのと同じように、我々はブラックホールを直接みることなく、周りの星の動きを拡大鏡を用いて一つ一つ調査することで、ブラックホールを探し出すことを試みてきた。今回の研究成果はこの方法で一つのブラックホールを発見することに成功したが、今回を機に他の星団で多くのブラックホールが見つかることだろう。」と今回の研究成果の意義についてコメントしている。

 

 今回の研究で観測対象となったNGC1850は年齢が1億年ほどの若い星団であるが、今回の研究のようにブラックホールまわりの星の動きをみることでブラックホールを見つけ出す手法を用いることで、もっと多くのブラックホールを見つけ出すことが可能であるとしている。若い星団内におけるブラックホールの形成・進化過程と、年老いた星団内におけるブラックホールの形成・進化過程を比較することで、ブラックホールがどのようにして伴星に物質を供給するのか、他のブラックホールとどのようにして衝突するかなどの物理過程を理解するのに役立つと指摘している。さらに重力波源の特定にも役立つとしている。

 

 

( C ) ESO/M. Kornmesser

若い星団NGC1850内にあるブラックホールと伴星の想像図。ブラックホールは太陽質量の11倍の質量、伴星は太陽質量の5倍の質量を持っている。伴星はブラックホールの重力の影響でゆがみが生じており、ブラックホール周りを軌道運動していることが、MUSEの視線速度情報などのデータから判明した。この伴星の存在が恒星質量ブラックホールが確かに存在するという決定的な証拠となった。