11月20日

 

 

 カナダ国立研究評議会のトビー・ブラウン氏を中心とする国際研究チームは2日、おとめ座銀河団を対象として、アルマ望遠鏡による一酸化炭素観測を行った結果、銀河が100万度にも及ぶプラズマガス中を高速移動することによって、星の材料となる冷たい分子ガスが引きはがされていることが判明したと発表した。銀河の星形成活動を停止させる要因は長年の謎とされていたが、今回の研究成果は星形成活動を停止させる明確な証拠となるとしている。

 

 銀河は大きな星の集合体であり、その誕生、進化、そして死(星形成活動の終焉)は、その銀河が宇宙のどこにあって周囲の環境とどのように相互作用しているかに大きな影響を受けている。特に銀河団は宇宙の中でも最も過酷な環境であり、銀河の進化を研究する天文学者にとっては特に興味深い場所である。

 

 今回観測対象となったおとめ座銀河団は、2,000個の銀河を擁しており、天の川銀河が存在する局所銀河群の隣にある銀河団である。宇宙の多くの銀河団は、ガスが少なく星の形成をほとんどしていない「赤い銀河」(*注1)で占められている。その一方でおとめ座銀河団は星を作り続けている銀河の数が比較的多いという点で、少し変わっている。

 

 研究チームは「Virgo Environment Traced in Carbon Monoxide Survey(VERTICO、一酸化炭素サーベイによるおとめ座銀河団環境調査)」と名付けられた研究プログラムを基に、星の形成と宇宙における銀河の役割をより深く理解することを目的としている。今回はおとめ座銀河団にある51個の銀河のガスをこれまでになく高解像度で観測した(図1)。その結果、銀河全体が星を形成するのを止めてしまうほど周囲の環境が過酷であることが明らかになった。ブラウン氏は、「おとめ座銀河団は、100万度のプラズマ、極端に高速の銀河、銀河とその周囲の激しい相互作用があるのに加えて、『引退した銀河のたまり場』あるいは『銀河の墓場』とも呼べるような場所が混在する、近傍宇宙の中でも最も極端な領域です」とコメントしている。今回の研究で、こうした極端な環境が銀河のガスを引きはがすことによって、宇宙で最も重要な物理的プロセスのひとつである星の形成がどのように阻害されるのかが明らかになった。ブラウン氏は「ガスの引きはがしは、銀河の星形成を停止させる最も壮大で暴力的な外的要因の1つです。これは銀河が銀河団内の高温プラズマの中を高速で移動しているときに起こる現象で、あたかも巨大なほうきでガスが掃き出されるように、膨大な量の冷たい分子ガスが銀河から剥ぎ取られていきます。VERTICOの精緻な観測によって、このようなメカニズムをよりよく見て理解することができるのです」とコメントしている。

 

 VERTICOプロジェクトの共同研究者であるマクマスター大学特別教授のクリスティーン・ウィルソン氏は「銀河団の環境が銀河内の分子ガスにどのような影響を与えているのか、また、それらの環境が銀河の『死』にどのような影響を与えているのかについては、長年にわたり多くの疑問がありました。我々にはまだやるべきことがありますが、VERTICOによってこれらの疑問にきっぱりと答えることができると確信しています。」と今後の抱負についてコメントしている。

 

*注1 赤い銀河は古い星で構成されており、バルジが大きいほど赤い銀河である確率が高いことが過去の研究で示されている(カナダ・ビクトリア大学のAsa Bluckさんet al.)。またほとんどの銀河の中心には超巨大質量ブラックホールが存在しており、バルジの質量はブラックホールの質量に密接に関係している。そして、ブラックホールの質量が大きいほど、より多くのエネルギーが強力なジェットやX線放射の形で放出され、周囲のガスが吹き飛ばされたり高温になったりして星の形成が妨げられると考えられている。バルジが大きいということはブラックホールも大きく、ブラックホールの活動によって星形成が止まるということである。

 

 

図1 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S. Dagnello (NRAO)/Böhringer et al. (ROSAT All-Sky Survey)

アルマ望遠鏡の一酸化炭素観測で捉えられたおとめ座銀河団の51個の銀河(オレンジ色)とローサット衛星のX線によって捉えられた高温プラズマの分布(青色)の合成図。今回の観測で銀河が高温プラズマ中を通過することで、星形成の基となる冷たい分子ガスがはぎとられていることが判明した。

 

 

( C )  ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S.Dagnello (NRAO)

NGC 4567とNGC 4568は、地球から約6500万光年の距離にあるおとめ座銀河団に属する銀河であり、上図のように衝突している。2つの銀河は、銀河団の中に満ちるガスの影響を受け、星形成を停止しようとしていると考えられている。この画像は、アルマ望遠鏡が電波で観測した分子ガス(赤色/オレンジ色)と、ハッブル宇宙望遠鏡の光学データで撮影された星の分布(白色/青色)の合成図である。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S.Dagnello (NRAO)

渦巻銀河NGC 4254は、おとめ座銀河団に含まれる銀河のひとつである。この画像は、アルマ望遠鏡が電波で観測した分子ガス(赤色/オレンジ色)と、ハッブル宇宙望遠鏡の光学データで撮影された星(白色/青色)の合成図である。