11月27日

 

 

 François Hammer氏(フランス・PSL研究大学)を中心とする国際研究チームは24日、Gaia(ESAの位置天文衛星)EDR3のデータを用いて天の川銀河まわりの銀河の速度構造を解析した結果、従来天の川銀河の重力に捉えられて重力と遠心力のつり合いで回転運動していると考えられていた矮小銀河が、実は未だ回転軌道に乗っておらず、天の川銀河に向かって到来している段階にあることが判明したと発表した。これらの銀河はいずれ天の川銀河に吸収される、もしくは天の川銀河を通過していくことになると考えられるが、François氏は天の川銀河によって吸収されて伴銀河になると予想している。

 

 矮小銀河は数千から数十億程度の星の集団である。ここ数十年間の天文学者たちの認識としては、天の川銀河まわりにある矮小銀河は、天の川銀河の重力で捉えられて、重力と遠心力のつり合いで軌道運動をする伴銀河であり、その構造を何重億年もの間保ち続けていると考えていた。

 

 その一方で天の川銀河の過去を振り返ると、いくつかの矮小銀河を吸収した形跡が残されている。例えば、Gaiaデータによる矮小銀河の軌道の形と、保有しているエネルギーの解析から、ガイア・エンケラドスと呼ばれる矮小銀河(質量は小マゼラン雲よりも少し大きい程度)が80~100億年ほど前に天の川銀河に吸収されていたことがわかっている。最近でいえば40~50億年ほど前に、いて座矮小楕円銀河が天の川銀河によって捉えられて、現在においてもいて座矮小楕円銀河がばらばらに崩されながら吸収されている段階にあると考えられている。いて座矮小楕円銀河に属する星々のエネルギーは、ガイア・エンケラドスのエネルギーよりも高いことから、短時間に天の川銀河の影響を受けたと考えられている。

 

 今回研究チームは天の川銀河周りの銀河の運動を調査することとした。まずはGaiaのEDR3のデータから、天の川銀河周りの40個の矮小銀河の固有運動、視線速度を計算し、それらのデータから3次元の速度構造、軌道エネルギー(軌道運動方向の速度に依存する)、角運動量を計算した。そしてこれらの数値を用いて、コンピューターシミュレーションによって天の川銀河周りの矮小銀河の運動の解析を行った結果、これらの銀河が、天の川銀河周りで軌道運動しておらず、現在もなお、天の川銀河に向かって到来してきている銀河たちであることが判明した。その根拠は、これらの矮小銀河が、天の川銀河まわりを軌道運動している巨大星、星団に比べて、とても大きな速さで動いていることだとしている。これらの矮小銀河と天の川銀河の間には重力が働いているが、あまりにも矮小銀河の速度が速いがために、天の川銀河周りを軌道運動するための軌道エネルギーと角運動量を弱めることになっているとしている。そしてこのようなエネルギーの高い矮小銀河はここ数十億年間の間に天の川銀河近傍まで到達してきたことを示唆しているとしている。

 

 例えば大マゼラン雲(矮小銀河)は南半球から肉眼でもみえるほどの矮小銀河であるが、2000年代までは、天の川銀河の伴銀河であると考えられていた。しかし天文学者たちが大マゼラン雲の速度構造を調べると、あまりにも速く動いているために、天の川銀河の重力に引き付けられて、天の川銀河に向かっている段階にあることに気づいた。今回の研究成果はまさにこの事実と同じことを示している。

 

 天の川銀河周りの矮小銀河は天の川銀河に向かって到来してきている段階にあることがわかったが、それではこれらの矮小銀河が天の川銀河のまわりを軌道運動することになるのか、それとも天の川銀河を通過していくのか。この疑問に対して、François氏は「いくつかの矮小銀河は天の川銀河に捉えられて、伴銀河になるだろう」とコメントしている。

 

 この疑問に対する答えを見つけるためには、天の川銀河の正確な質量を知る必要があり、容易に答えを出せるものではない。なお矮小銀河が天の川銀河を軌道運動するためには、天の川銀河の重力の力によって、吸収される必要がある。これは銀河の潮汐力と呼ばれる。天の川銀河はとても質量が大きいがために、銀河の潮汐力によって矮小銀河はばらばらに崩されるという。すなわち矮小銀河が天の川銀河の伴銀河になるということは、矮小銀河の死を意味する。ばらばらになるのを防ぐ唯一の方法は、矮小銀河がかなりの量のダークマターを持つことである。なおこれらの考察から、従来考えられてきた矮小銀河が天の川銀河の伴銀河であるという理論は、矮小銀河が多くのダークマターを保持しているという仮定に基づいて成り立つ理論である。しかしGaiaデータの解析による、天の川銀河まわりにある矮小銀河の運動の調査によって、これらの矮小銀河がダークマターを保持する必要がないという結果が得られている。いずれにせよ、矮小銀河が潮汐力による崩壊に耐えられるのかどうか、もしくは他の物理的プロセスによって矮小銀河が天の川銀河によってばらばらに崩される過程があるかどうかをよく確かめる必要があるとしている。このことをしっかりと評価することで、本当に従来の理論が間違っているのかの確証を得ることができる。

 

 

位置天文衛星Gaiaデータによって描き出された天の川銀河(中央)とそのまわりの矮小銀河

( C ) ESA/Gaia/DPAC,CC BY-SA 3.0 IGO

 

天の川銀河の近傍には50個もの銀河が存在する。銀河の名前は星座の方向によって決まることが多い。LMC(大マゼラン雲)とSMC(小マゼラン雲)は南半球から肉眼でも見える銀河である。従来まではこれらの矮小銀河は天の川銀河の伴銀河であると考えられていたが、Gaiaデータの解析によって多くの矮小銀河が、天の川銀河に到来している段階にあることがわかった。