12月4日

 

 

 フランス・ストラスブール天文台のKarina Voggel氏を中心とする国際研究チームは11月30日、ESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT望遠鏡に搭載されたMUSE(超広視野面分光装置)とNASAのハッブル宇宙望遠鏡によるNGC7727銀河(みずがめ座方向8900万光年に位置する)の観測データを解析した結果、間の距離が1600光年の連星ブラックホールを発見することに成功したと発表した(図1)。この2つのブラックホールの位置関係と速度から、今後2億5000万年以内に2つのブラックホールが衝突合体し、巨大ブラックホールになることが示唆されるとしている。今回の研究成果は、宇宙に存在する超巨大ブラックホールがどのようにして形成されたのかを研究する上で重要な発見である。また今回の発見はこれまでで最も地球から近い連星ブラックホールを発見したことになる。(これまでの記録は地球から4億7000万年光年離れた連星ブラックホール)。

 

 NGC7727銀河は約10億年前に2つの銀河が衝突してできた銀河であると考えられている。そのため、NGC7727銀河には2つのブラックホールが潜んでいる可能性があると考えられていたが、ブラックホールまわりの高エネルギー放射線を観測することができていなかったため、その存在を確かめることができていなかった。

 

 基本的に銀河の中心には巨大ブラックホールが存在すると考えられているが、2つのブラックホールが近接しているということは2つの銀河が衝突合体の段階にあることを示している。2つの銀河が衝突すると、2つのブラックホールが衝突合体の過程に入ることになる。

 

 今回研究チームはESOのVLT望遠鏡に搭載されたMUSE(超広視野面分光装置)とNASAのハッブル宇宙望遠鏡の観測データを参照し、2つのブラックホールが存在すると考えられていたNGC7727銀河の観測データを解析することで、ブラックホールの存在を確かめることとした。解析の結果、連星ブラックホールを発見することに成功した。このブラックホールの位置関係と速度から、2つのブラックホールが今後2億5000万年以内に衝突し、超巨大ブラックホールになることが示唆されるとしている。研究チームの1人であるオーストラリア・クイーンズランド大学の Holger Baumgardt氏は「衝突過程にある2つのブラックホールをみることで、宇宙に存在する超巨大ブラックホールがどのようにしてできたのかを説明することが可能になるかもしれない」とコメントしている。また研究チームは2つのブラックホールの重力によってまわりの星がどのようにして運動するかを確かめることで、質量を見積もることにも成功した。これによると、2つのブラックホールの片方は太陽質量の1億5400万倍、もう片方は6300万倍であるとしている。

 

 今後も連星ブラックホールの観測は続くが、今後チリのアタカマ砂漠に建設予定のELT望遠鏡によって更なる連星ブラックホールの発見が見込まれるとしている。研究チームの一人である Steffen Mieske(ESOの天文学者)氏は「巨大質量の連星ブラックホールの観測はまだ始まったばかりである」とコメントしており、今後も多くの連星ブラックホールが観測されることが期待されている。

 

 

 

( C ) ESO/Voggel et al.; ESO/ VST ATLAS team.

右はVLT望遠鏡で観測されたNGC7727銀河であり、左はMUSEで捉えたNGC7727銀河のクローズアップの写真。左の写真では2つの活動銀河核が映っている。この明るく輝く活動銀河核の部分にブラックホールが潜んでいる。