1月2日

 

 

 鹿児島大学大学院理工学研究科の塚本裕介助教授を中心とする研究グループは12月14日、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」(*注1)を用いたシミュレーションによって、惑星のゆりかごである「原始惑星系円盤」において、固体微粒子のダスト(数ミリメートル程度に成長した塵)がガスの噴出現象であるアウトフローによって一度磁場に沿って巻き上げられ、その後原始惑星円盤外縁部に降り積もり、惑星の種が作られる可能性があるとの研究結果を発表した(図1)。塚本助教授は、鹿児島市で見られる桜島の噴火における降灰現象をたびたび見ていたことから、このことに着想を得て今回の研究を行っていた。今回の研究結果は桜島の噴火による降灰現象との類似性から、「天空の降灰現象」と名付けられた。また形成期にある原始星周囲でのダストの成長と運動を最新のスーパーコンピュータによる3次元シミュレーションによって世界で初めて解明し、それが惑星形成に重要な役割を果たすという、星と惑星形成についてのまったく新しい理論的理解への道を開くという点でも重要な研究結果であるとしている。

 

 惑星は生まれたばかりの星の周囲に形成される、ガスと塵の円盤である「原始惑星系円盤」の中で誕生する。この塵は、最初は0.1マイクロメートルほどの非常に小さな固体微粒子であり、「ダスト」と呼ばれる。惑星の形成過程の研究では、この小さなダストがどのように成長し、それに伴ってどのように運動するかを、観測や理論によって解き明かそうという試みが盛んに行われてきた。またこれまでの天文観測によって、生まれて100万年以内の非常に若い原始惑星系円盤においてダスト成長の兆候が検出されている。さらに、中心の原始星から数10天文単位の距離において円盤に隙間構造が観測されており、その要因としては大きく成長した惑星が通ったがために隙間が生まれたということが考えられている。これらの観測結果からは若い原始惑星系円盤において、すでにダストの成長や惑星形成が起こっている可能性が示唆される。

 

 しかしダストが惑星までに成長するメカニズムは未だ明らかになっていない。原始惑星系円盤の成分であるガスやダストは、原始星を中心に公転しており、円盤の中でダストが成長するにつれて、円盤内のガスが向かい風のように働くために塵の公転運動が妨げられ、ダストが中心の原始星へと急速に落ちていくことが理論的に考えられている。この現象は「ダストの中心星落下」と呼ばれるが、これは中心星から数十天文単位の距離の円盤外縁部では、ダストが成長し惑星が形成することは非常に困難であることを示している。そのため、観測が示唆するような円盤外縁部での惑星の形成がどのようにして起こるのかは明らかになっていなかった。

 

 研究チームは原始惑星系円盤外縁部での惑星形成理論を構築すべく、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いて、ガスと成長するダストの両方を考慮した3次元磁気流体力学シミュレーションを行った。その結果、ダスト落下問題を回避する新しいメカニズムを発見した(図2)。図1は図2をわかりやすく説明したものであるが、シミュレーション結果によると、まずは原始惑星系円盤の内側で大きく成長したダストは円盤からのガスの噴出現象である「アウトフロー」に巻きあげられる。その後、ダストは遠心力によってアウトフローから分離し、最終的には円盤の外縁部に降り積もることがわかった。このメカニズムは、鹿児島県でみられるような桜島の火口から噴火によって放出されたガスと灰の混合物が大気中で分離し、灰(またはダスト)のみが選択的に地表に降り積もるという、火山噴火による降灰の挙動に似ている。そのため、研究チームはこの現象を「天空の降灰現象」と名付けた。

 

 研究チームが発見したこの現象では、成長したダストは密度の低い円盤外縁部に再び降ってくることによって、ガスからの空気抵抗が小さくなり、中心原始星に落下しづらくなる。つまり、ダストは中心星に落ちることなく、外縁部でも大きく成長することができ、さらには惑星の形成につながる可能性があることが示された。

 

 シミュレーションを行った塚本助教は「鹿児島にきて早五年。桜島の火山噴火を日々眺めていてこの研究の着想を得ました。この天空の降灰現象では、1年で地球の10分の1ほどの質量の灰が降って来ます。こうして円盤に降り積もった灰が、私たちが住む地球のような惑星や、さらには私たちのような生命の素になったのかもしれません。」とコメントしている。

 

 本研究によって、形成期にある原始星周囲でのダストの成長と運動が世界で初めて解明され、原始惑星系円盤外縁部でのダスト成長の可能性が示された。研究チームは今後、さらなるシミュレーション研究によってダストの運動やサイズ分布の詳細を解明し、その観測的特徴を明らかにすることで、アルマ望遠鏡を用いた電波観測によってこの「降灰」モデルの検証を行っていくとしている。さらに、円盤外縁での惑星の種や惑星そのものの形成過程を解明することで、星形成と惑星形成の理論研究を融合したまったく新しい理論の構築を進めていくとしている。

 

*注1 国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが運用する、シミュレーション天文学専用のスーパーコンピュータ。理論演算性能は3.087ペタフロップス(1ペタは10の15乗、フロップスはコンピュータが 1 秒間に処理可能な演算回数を示す単位)で、天文学の数値計算専用機としては世界最速である。岩手県奥州市にある国立天文台水沢キャンパスに設置されており、平安時代に活躍したこの土地の英雄アテルイにあやかり命名された。「勇猛果敢に宇宙の謎に挑んで欲しい」という願いが込められている。

 

 

図1( C ) 鹿児島大学

原始星周囲の構造と今回発見した「天空の降灰現象」の概念図。(1)円盤内でダストが成長し、中心の原始星の近くまで移動する。(2)原始星近くまで到達すると、ガスのアウトフローによってダストが垂直方向に巻き上げられる。(3)遠心力によってアウトフローからダストが分離する。(4)アウトフローから離れたダストが、円盤の外縁部に「降灰」する。

 

 

図2 ( C ) 鹿児島大学

ガス(左図)とダスト(右図)の流れの様子。オレンジ線、赤線それぞれがガスとダストの通り道(流線)を、白い矢印が流れの方向を表す。黄色い領域がシミュレーション内で形成した原始惑星系円盤を表す。