種子島沖海底泥火山でメタンハイドレートを発見

1月22日

 

 

 神戸大学大学院海事科学研究科の井尻暁准教授を中心とする共同研究グループは18日、海洋研究開発機構の東北海洋生態系調査研究船「新青丸」による琉球海溝北部の種子島沖海底泥火山(図1)(*注1)の調査航海において、約20cmの厚さである塊状のメタンハイドレートの採取に成功したと発表した(図2)。日本周辺の海域において南海トラフよりも南西の琉球海溝でメタンハイドレートが発見されたのはこれが初めてであるとしている。

 

 種子島沖には数十以上の泥火山が広く分布しており、2012–2014年にこの海域において詳細な海底地形調査が実施され、現在までに15個が泥火山として確認され、番号がつけられている。2015年と2019年には学術研究船「白鳳丸」の航海で、地質学、地球化学、微生物学の研究者らの共同研究として第1、第2、第3、第14泥火山において堆積物と直上の海水が採取されており、本研究航海は3回目の総合的な研究調査航海として実施することを目的としていた。

 

 メタンハイドレートは、天然ガスの主成分でエネルギー資源である「メタンガス」が水分子と結びつくことでできた氷状の物質であり、火を近づけると燃えるため、「燃える氷」とも呼ばれる。メタンハイドレート1立方メートルから取り出すことのできるメタンガスは、約160立方メートルであり、小さな体積からたくさんのエネルギーを生み出すことができることが特徴である。またメタンハイドレートを燃やした場合に排出されるCO2は、石炭や石油を燃やすよりも約30%ほど少ないことも特徴である。これらの特徴から、石炭や石油に代わる次世代エネルギー資源として期待されている。

 

 研究チームは泥火山の活動度および放出される海底下深部起源のメタン、微生物、炭素物質の量の見積もり、泥火山活動による海洋・生物環境への影響を明らかにすることを目的として、海洋研究開発機構の東北海洋生態系調査研究船「新青丸」を用いて、種子島沖海底泥火山群のうち3つの泥火山で、採水・採泥調査、地球物理探査を行った。まず2021年12月28日に和歌山港を出港し、12月29日から種子島沖第8、第10、第15泥火山で調査を行い、1月6日に横須賀港に帰港した。調査最終日の1月3日には、第15泥火山の山頂付近でピストンコアラーという採泥機器を用いて、堆積物試料を採取することに成功した。このピストンコアラーの上部にガス抜きのための穴を開けたところ、ガスと共に海水が勢いよく数十秒間噴き出し続けたことから、堆積物には多量のメタンが含まれていることが期待された。そこで実際に船内の実験室でコア試料の中身を確認したところ、海底面から約1 mの深さの堆積物中に白い固体状の物質が2層、20cmの幅で入っており、発泡しながら解けていく様子が観察された。また赤外線カメラを用いて測定された表面温度は、周囲の堆積物よりも低い0℃近くを示し、メタンハイドレートの分解による温度低下が観察されたことからこの白い固体状の物質がメタンハイドレートであることが確認された。また採取されたメタンハイドレートの一部をガラス容器に入れて解かし、下船後、ガス組成を測定したところ高濃度のメタンが検出されたとしている。さらに同時に採取した海底表層の堆積物には、シロウリガイ(*注2)の殻が多量に入っていることが確認された。

 

 種子島沖には、第15泥火山と同様の海底泥火山が多数存在する。また海底下にはメタンハイドレートの存在を示すとされる海底疑似反射面(BSR)が観測されているため、同海域にはメタンハイドレートが広く分布していることが予測されている。今後は、採取したメタンハイドレートの構造や、ハイドレートに含まれるメタンや水の詳細な化学分析を行い、メタンの起源や生成深度、供給メカニズムを調べることで、種子島沖海底のメタンハイドレートおよび炭化水素資源の成因や規模、炭素循環について明らかにしていく予定であるとしている。

 

*注1 泥火山は、地下深部で形成された泥質流体(水やガスを多く含む泥質堆積物)が表層に噴き上がってできた円錐形の高まりで、世界各地の大陸縁辺域に分布している。日本周辺では紀伊半島沖熊野灘と種子島東沖に多く存在していることが知られている。

 

*注2メタンを多く含む海底湧水域に密集して生息する二枚貝。メタンや硫化水素などをエネルギー源に有機物合成を行う化学合成細菌とよばれる微生物を体内に共生させる化学合成共生生物の代表種。

 

 

図1 ( C ) 神戸大学 et al.

調査海域位置図と種子島沖第15泥火山海底地形図

 

 

 

図2 ( C ) 神戸大学 et al.

採取されたメタンハイドレート(白い固体状の部分がメタンハイドレート)。