土星軌道以遠で誕生した小惑星が火星と木星の間に到達してきたことを示唆する研究成果

1月29日

 

 

 東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の黒川宏之特任助教を中心とする国際研究チームは27日、宇宙空間から観測を行う赤外線天文衛星「あかり」による太陽系の小惑星帯(*注1)の観測と理論計算を組み合わせることで、小惑星帯に存在するC型小惑星(*注2)(代表的なものとして小惑星リュウグウがあげられる)が太陽から遠く離れた極寒の環境で誕生し、その後現在に小惑星帯に大移動してきたことを示唆する研究成果を見出したと発表した。「あかり」による観測結果からは、C型小惑星の約半数の表面にアンモニアを含む層状珪酸塩鉱物(*注3)が存在することを発見した。また理論計算によって、小惑星がアンモニアの氷とドライアイスを含む条件下で誕生した場合にのみ、発見された鉱物が生じることを突き止めた。これらの物質は、太陽系における土星軌道以遠の環境に相当する極寒の環境でのみ安定であることから、C型小惑星は小惑星帯からはるか遠方で誕生した後に木星や土星の巨大惑星による重力によって、9億 kmにも及ぶ大移動をしてきたことを示唆しているとしている。今回の研究成果は太陽系形成史を紐解く上で重要な研究成果である。

 

 小惑星の中で「C型小惑星」と呼ばれるものは、水や有機物を含む隕石(炭素質コンドライト隕石)に近い組成を持つとされ、地球の大気や海、生命の材料物質の起源と考えられている。そのため、C型小惑星がどこで、どのように誕生したのかについては多くの研究者に注目されている。

 

 アンモニアを含む層状珪酸塩鉱物は、炭素質コンドライト隕石の中ではこれまで発見されておらず、小惑星帯のC型小惑星においてもその存在が確実視されていたのは探査機が訪れて直接確認したケレス(1 Ceres)1例のみであった(ケレスは現在の分類では「準惑星」とされている)。

 

 研究チームは小惑星帯における小惑星で、ケレスのようにアンモニアを含む層状珪酸塩鉱物が存在するだろうと仮定し、このことを証明すべく、赤外線天文衛星「あかり」の取得データの詳細解析を行った。さらに、アンモニアを含む層状珪酸塩鉱物の形成条件を明らかにすべく理論計算を実施し、その結果をもとに小惑星誕生過程の検討を行った。その結果、C型小惑星の約半数の表面にアンモニアを含む層状珪酸塩鉱物が存在することを発見した。また理論計算によって、小惑星がアンモニアの氷とドライアイスを含む条件下で誕生した場合にのみ、発見された鉱物が生じることを突き止めた。これらの物質は現在の太陽系では土星軌道(小惑星帯から約9億 km離れた位置)以遠に相当する、マイナス190℃以下の極寒の環境でのみ安定である。すなわち、C型小惑星が太陽から遠く離れた場所で誕生した後に、木星や土星といった巨大惑星の重力の影響によって現在の小惑星帯まで大移動をしてきたことを示唆していることがわかった。この結果は下記の2つの研究アプローチによって導かれたものである。

 

 まず日本の赤外線天文衛星「あかり」が過去に取得した66の小惑星の分光データから、データの信頼性等を踏まえながらC型小惑星19天体と、C型小惑星より始原的と考えられるD型小惑星2天体、合計21天体の小惑星のデータを抜粋して、それらを詳細に解析した。その結果、解析を行った小惑星の約半数の天体において、その表面にアンモニアを含む層状珪酸塩鉱物の存在が確認された。

 

 次にアンモニアを含む層状珪酸塩鉱物がどのような環境で形成されるのかを調べるため、小惑星の内部における水と岩石の化学反応の理論計算(シミュレーション)を行った。小惑星を構成する水と岩石の割合や温度、圧力といった条件を変えながら検討を進めた結果、小惑星がアンモニアの氷とドライアイスを含んで誕生した場合にのみ、発見された鉱物が生じることを突き止めた。さらに、水が豊富な外層と岩石を主成分とする内核に分化した小惑星の、外層部分においてのみアンモニアを含む層状珪酸塩鉱物が形成されることもわかった(図1)。ちなみに隕石は天体衝突によって小惑星が破壊された破片が地球に飛来したものであるが、氷に富んだ外層の物質は隕石として地上に到達することなく四散してしまうため、アンモニアを含む層状珪酸塩鉱物は隕石から発見されないだろうと研究チームは結論づけている。

 

 2020年12月に日本の小惑星探査機「はやぶさ2」が地球近傍のC型小惑星リュウグウの試料を地球に持ち帰った。現在、世界中でその試料の分析が進んでおり、続々とその成果が公開されている。また、米国の小惑星探査機「オシリス・レックス」(OSIRIS-REx)も同じく水や有機物を豊富に含んでいると思われる小惑星ベンヌ(101955 Bennu)の試料を2023年に持ち帰る予定である。研究チームはこれらの小惑星の試料において、アンモニアを含む塩や鉱物が発見された場合、本研究の結論を裏付けるものとなると期待している。

 

*注1 火星と木星の公転軌道の間に存在する、小惑星が多数存在する領域。現在までに100万個以上の小惑星が発見されている。

 

*注2 分光観測にもとづく小惑星の分類の1つ。水や有機物を含むと考えられている。

 

*注3 層状構造を持つ珪酸塩鉱物で、層間に水やアンモニアなどを含むことができる。

 

 

 

( C ) NASA/JPL-Caltech

太陽系の小惑星帯のイメージ図。

 

 

図1( C ) Kurokawa et al. 2022 AGU Advances、東京工業大学

本研究から導かれたC型小惑星の形成進化史。