超巨大ブラックホールを覆う分厚いダスト・ガスリングを捉えた

2月19日

 

 

 オランダ・ライデン大学の Violeta Gámez Rosas氏を中心とする研究チームは16日、くじら座方向約4700万年光年離れた場所にある活動銀河核、NGC1068をESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT望遠鏡に搭載された赤外線電波干渉計・MATISSEを用いて観測した結果、活動銀河核中心にあると考えられている超巨大ブラックホールを覆い隠す分厚いダスト・ガスリングを発見することに成功したと発表した(図1、2)。活動銀河学に関する理論モデルはこれまで30年に渡って築きあげられてきたが、今回の研究成果は活動銀河核の構造に関する理論モデルの確証を得る重要な発見であるとしている。

 

 活動銀河核は、中心にある超巨大ブラックホールがまわりのガスや塵をスパイラル状に巻き込むことで吸収し、強大なエネルギーを放出して明るく輝く天体であり、いくつかの銀河団の中心で発見されている。また活動銀河核はラジオバーストを発するほど光り輝くものや、NGC1068のように、それほどの光を出さない活動銀河核が存在するとされている。

 

 活動銀河核は1950年代に初めて発見されたが、それ以来多くの天文学者の間で研究されている。また地球から活動銀河核を見る方向によって、どれくらいの量のダスト・ガスが中心に存在する超巨大ブラックホールを覆っているのかが変わってくるとされている。

 

 今回研究チームはNGC1068の構造を調査すべく、ESOのVLT望遠鏡に搭載された赤外線電波干渉計・MATISSEを用いて観測を行うこととした。MATISSEは幅広い赤外線バンドを観測することが可能であり、ガス・ダストの存在を捉えるとともに、正確な温度を測定することが可能である。研究チームは、およそ1200℃に達するダスト温度の変化を捉えることで、ブラックホールからの電磁波を吸収するガス・ダストの分布図を作成することとした。観測の結果、超巨大ブラックホールを覆う分厚いダスト・ガスリングを発見することに成功した(図1、2)。理論モデルではNGC1068の中心において温かいガスが覆うと考えられていたため、このことを証明することとなったとしている。さらにダスト・ガスの温度分布図から正確なブラックホールの位置を特定することにも成功した(図2)。

 

 しかし研究チームによれば未だにいくつかの疑問が残るとしている。それはダスト・ガスが本当に超巨大ブラックホールを完全に覆っているのか、もしそうであればなぜ、このような活動銀河核が他の明るい活動銀河核よりも少し暗めになっているのかである。Gámez Rosas氏は「今回の発見で疑問に対する一つの答えを見つけることができなかったが、活動銀河核を理解する上で重要なステップを踏んだ。今回の研究成果が中心に超巨大ブラックホールを持つ天の川銀河の形成史を理解することにもつながる」とコメントしている。

 

 研究チームは今後、MATISSEを用いて他の活動銀河核の構造調査にも乗り出す予定である。また今後10年間において、ELT望遠鏡による観測活動が開始される予定であり、活動銀河核と銀河団の相互作用を理解する手助けとなることが期待されている。

 

 

 

図1 ( C ) ESO/Jaffe, Gámez-Rosas et al.

VLT望遠鏡によって撮影された銀河NGC1068(左)と、MATISSEを用いて撮影された銀河中心にある超巨大ブラックホールを覆うダスト・ガスリング(右)。

 

 

 

図2 ( C ) ESO/Jaffe, Gámez-Rosas et al.

NGC1068銀河中心にある超巨大ブラックホールを覆い隠すダスト・ガスリング。ダスト・ガスリングの中心にある黒いドットが、予想されるブラックホールの位置である。白いダッシュ線は今回捉えられたダスト・ガスの回転面を示している。