原始惑星系円盤でカシューナッツ状の領域に広がったジメチルエーテルを発見

3月12日

 

 

 オランダ・ライデン大学の修士学生であるNashanty Brunken氏を中心とする研究グループは8日、へびつかい座方向約444光年先にあるIRS48と呼ばれる原始惑星系円盤をアルマ望遠鏡で観測した結果、原始惑星系円盤の南側にカシューナッツ状の領域に広がったジメチルエーテルなどの複雑な有機分子を発見したと発表した(図1)。これまでに原始星円盤では複雑な有機分子を観測することに成功していたが、惑星を形成する場所において発見されたのは今回が初めてである。ジメチルエーテルは生物が生きていくうえで必要なアミノ酸や糖に変わるものと考えられており、今回の研究成果は生物に必要な栄養素がどのようにして形成されたのかを研究する上でとても重要である。また他の原始惑星系円盤における生物生存可能性を見出すうえでも重要である。

 

 今回観測対象となったIRS48原始惑星系円盤は、へびつかい座方向約444光年に位置しており、中心星のIRS48が若い星である、もしくは伴星の影響によって、原始惑星系円盤の南側にダストトラップと呼ばれるカシューナッツ状に塵が広がっていると考えられている。ダストトラップにある塵はミリメートルサイズであるが、これらの塵が合体成長してキロメートルサイズの彗星や惑星にまで成長していくと考えられている。

 

 ジメチルエーテルは燃焼時にススが発生せず、SOXやNOXの発生が少ないため、環境負荷の極めて小さい「次世代のクリ-ンエネルギー媒体」とも呼ばれている。原始星円盤で発見されたことはあるが、惑星を形成する原始惑星系円盤でこれまでに発見されたことはなかった。原始星円盤は冷たい環境にあることから、単純な分子である一酸化炭素が塵と結びつき、氷の層を形成して化学反応を起こし、そこから複雑な有機分子が生まれるとこれまでは考えられていた。しかし最近の研究では、IRS48のような惑星形成につながる原始惑星系円盤においても、複雑な有機分子の氷の層が形成され、中心星からの熱によって温められることで有機分子のガスとなり、アルマ望遠鏡で検知することが可能であるとの指摘がなされていた。

 

 今回研究チームは原始惑星系円盤における有機分子の存在を確かめるべく、アルマ望遠鏡を用いて、実際にIRS48原始惑星系円盤を観測対象として、複雑な有機分子の輝線を捉えることを試みた。その結果、図2のように複数の複雑な有機分子を発見することに成功した。今回の研究成果は他の複雑な有機分子も原始惑星系円盤において観測が可能であることを示唆している。

 

 Nashanty Brunken氏は「今回の研究結果から、我々が住む太陽系における生物の起源を研究すること、また他の惑星系における生物生存可能性を見出すことにつながる。」とコメントしている。これらの複雑な有機分子は生物生存に必要なアミノ酸や糖を生み出すのに欠かせない。よって今後は原始惑星系円盤に含まれる有機分子がどのように形成され、進化していくのかを研究することが、生物生存に必要な栄養素がどのようにして生み出されたのかを研究する上で重要な鍵を握る。共同研究者であるライデン大学のNienke van der Marel氏は「今後原始惑星系円盤における多くの観測によって、我々太陽系における生物に必要な栄養素の起源に迫りたい」とコメントしている。

 

 

図1 ( C ) ESO/L. Calçada, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/A. Pohl, van der Marel et al., Brunken et al.

左が原始惑星系円盤のイメージ図、右上は実際に観測されたジメチルエーテルの輝線(青色)。右下は分子構造のイメージ図である。原始惑星系円盤の南側にカシューナッツ状に広がったダストトラップがあるが、その領域にジメチルエーテルが存在していることがわかる。

 

 

図2 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/A. Pohl, van der Marel et al., Brunken et al.

IRS48原始惑星系円盤においてアルマ望遠鏡によって捉えられた様々な分子輝線。左上の一酸化炭素分子輝線が原始惑星系円盤の全体像を示しており、星マークは中心星を指す。左下のメタノール分子輝線の領域は、原始惑星系円盤の南側にカシューナッツ状に広がったダストトラップの領域を示している。右下は今回発見された複雑な有機分子であるジメチルエーテルの分子輝線。