今まさに生まれつつある原始惑星を直接撮像により発見

4月9日

 

 

 すばる望遠鏡・ハワイ観測所のセイン・キュリー氏を中心とする国際研究チームは4日、すばる望遠鏡に搭載された超補償光学系(*注1)を用いた観測により、ぎょしゃ座 AB 星 (AB Aur)(ぎょしゃ座方向約520光年)の原始惑星系円盤に埋もれた、大量の物質が降り積もりつつある木星のような巨大原始惑星・AB Aur bを世界で初めて直接撮像により発見することに成功したと発表した(図1)。この天体の存在は、ハッブル宇宙望遠鏡の赤外線カメラを用いた追観測でも確認されたとしている。主星であるAB AURが200万年という若い年齢であることから、原始惑星・AB Aur bが主星の近くを行ったり来たりするような時間はなく、塵が降り注がれながら成長したわけではない。AB Aur bは、自己重力によって成長したと研究チームは結論付けた。今回の研究成果は惑星の形成理論モデルを考えるうえでとても重要である。

 

 惑星が、ガスや塵からなる原始惑星系円盤において生まれることは 1980年代から知られていた。太陽系の8個の惑星に対し、太陽系を超えた遠方にある惑星(系外惑星)は、1995年の最初の発見以降、約5000個も見つかっている。時を経て2010年代のすばる望遠鏡の観測や、最近のアルマ望遠鏡の観測から、原始惑星系円盤のギャップ(隙間)や渦巻腕などの構造が多数発見され、それらは円盤の中で今まさに生まれつつある惑星が存在する間接的な証拠であるとされている。

 

 研究者の間では太陽系の惑星とは大きく違った性質を持った系外惑星がどのようにして生まれ、どのように進化するのか、あるいは生物生存可能性があるのかどうかが大きな注目を集めている。これらの謎を解明するためには、惑星が生まれる現場で、今まさに生まれている惑星をとらえることが不可欠である。しかしこれまでは観測的な困難さから、年齢が 100 万年程度の若い惑星の観測は、これまで一例しか画像として捉えられていなかった。それはPDS70 と呼ばれる年齢が約 400 万年の若い星を公転する若い惑星・PDS70bである。「若い惑星」PDS70b は、原始惑星系円盤の「ギャップの中」に位置しており、そのまわりから物質が落ち込んでいるとしても限定的であるため、形成の最終段階にある、進化の進んだ惑星であると考えられている。

 

 今回研究チームは原始惑星系円盤内で今まさに生まれつつある惑星の最初の発見を目指すため、ぎょしゃ座AB星を観測対象としてすばる望遠鏡に搭載された超補償光学系を用いた観測を行った。その結果、主星から地球-太陽間距離の 93 倍も離れた軌道を公転する木星の約4倍の質量を持つ惑星AB Aur bを発見することに成功した(図1)。これらの特徴から「AB Aur b は、太陽系の木星型惑星とは異なる惑星系形成モデルの証拠となります」とセイン・キュリー氏はコメントしている。また主星の年齢が約 200 万年と非常に若く、惑星のまわりには多量の水素ガスなどの物質が観測されたことから、AB Aur b は、今まさに生まれつつある惑星、いわゆる「原始惑星」の最初の例であるとしている。同時に、すばる望遠鏡やアルマ望遠鏡でこれまでに発見された、AB Aur を取り巻く原始惑星系円盤のギャップや渦巻腕などの構造の原因が、惑星による円盤への影響であることを実証したことにもなるとしている。

 

 太陽系の惑星形成モデルは、若い星のまわりの原始惑星系円盤で微惑星が成長し、それがさらに多量の物質を集めて木星や土星のような巨大惑星が形成されるというモデルである。形成後にこれらの惑星が主星の近くや遠くに移動したり、散乱したりする可能性も示唆されている。しかし今回の発見は、惑星移動が起こる間もない時期に、主星から遠く離れた位置で巨大な原始惑星が誕生したことを示している。したがってAB Aur bは原始惑星円盤中で自己重力により巨大惑星が形成されるという「重力不安定による惑星系形成」の確たる例になるとしている。

 

*注1 地上の望遠鏡は、地球大気の影響であたかも水中から外の景色を見るように天体の像がピンボケで揺らいで見える。超補償光学系は、地球大気による天体像の乱れを極限的にリアルタイムで補正し、すばる望遠鏡をあたかも宇宙に置いたような、綺麗な天体像を実現する。検出器はCHARIS という撮像分光器と VAMPIRES という可視光偏光装置である。

 

 

 

図1 ( C ) T. Currie/Subaru Telescope

すばる望遠鏡によるぎょしゃ座 AB 星 (AB Aur)の赤外線画像。超補償光学系 SCExAO と撮像分光器 CHARIS で取得された。すばる望遠鏡などの観測でこれまで知られていた渦巻腕構造を伴った原始惑星系円盤と共に、今回新たに発見された原始惑星がはっきりと見えている。星印の位置にある明るい恒星(主星)は観測装置によって隠されている。中心の楕円(黄色の破線)は太陽系の海王星の軌道(地球-太陽間距離の約 30 倍)を表している。