宇宙初期における超巨大ブラックホールの前駆体を発見

4月16日

 

 

 ニールスボーア研究所(デンマーク・コペンハーゲン)の藤本征史氏を中心とする研究チームは13日、ハッブル宇宙望遠鏡の超広視野カメラの観測データなどを基にしてHubble GOODS North fieldと呼ばれる天空領域を解析した結果、宇宙初期における超巨大ブラックホールの前駆体となる、ビッグバン発生後7億5千万年経過した星形成銀河を発見したと発表した。この天体はGNz7qと名付けられた。塵を吸収しながらクェーサー天体に向かって成長段階にあるとしている。これまでに宇宙初期における星形成銀河と中心に超巨大ブラックホールを持つクェーサー天体は見つかっていたが、この間のミッシングリンク天体は発見されていなかった。今回の研究成果は超巨大ブラックホールの誕生・進化過程を探るうえでとても重要な観測成果であるとしている。

 

 これまでにビッグバン発生後の初期宇宙において、星形成銀河と中心に超巨大ブラックホールが潜むと考えられているクェーサー天体の観測例があるが、どのようにして超巨大ブラックホールが誕生したかは大きな謎とされていた。理論的には超巨大ブラックホールの前駆体は塵で覆われた活発的に星形成活動を行ういわゆる“スターバースト銀河”が始まりであり、周りのガスや塵をどんどん吸収していくことによって明るく光り輝く“クェーサー天体”へと成長したものであると考えられている。この理論モデルはコンピューターシミュレーションによっても支持されている。しかしスターバースト銀河とクェーサーの間のいわゆるミッシングリンク天体はこれまでに観測例がなかった。

 

 今回研究チームは超巨大ブラックホールの前駆体が何であるかを観測によって解き明かすべく、ハッブル宇宙望遠鏡の超広視野カメラのアーカイブデータを基にしてHubble GOODS North fieldと呼ばれる天空領域の解析を行うこととした。実際に解析を行った結果、GNz7qと名付けられた星形成銀河を発見し、この天体において、ブラックホールの降着円盤(ブラックホールの重力によって引き寄せられた塵やガスからなる円盤)から放出されると考えられる紫外線を捉えることに成功した。またGNz7qは1年間に太陽質量の1600倍の質量分の星を形成しており、GNz7q自体が紫外線で明るく輝く天体であるが、X線はかすかに捉えられている程度であるとしている。またこの天体を赤外線でみると、天体周りに降着円盤によって降り積もっていると考えられる塵で覆われていることが判明した。これらのことからGNz7qがスターバースト銀河内において塵を吸収しながら成長していくブラックホールであると結論付けた。また電波望遠鏡を用いた分光観測から、GNz7q はビッグバンからわずか7億5000万年後に存在していたことが判明した。藤本氏は「GNz7q天体の電磁波スペクトルの特性が、超巨大ブラックホールの前駆体となる天体の理論的なモデルとも一致している。GNz7qが宇宙初期における超巨大ブラックホールの前駆体である」とコメントしている。また共同研究者のニールスボーア研究所のGabriel Brammer氏は「Hubble GOODS North fieldと呼ばれる星形成の研究が盛んに行われている領域において、今回のような発見がなされたことが大変意義のあることである。」とコメントしている。

 

 今後の予定について藤本氏は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によってGNz7q のブラックホールや母銀河の成長過程、物理的な性質がより詳細に調べられることが期待されている。また、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam を用いた観測でも宇宙初期に大量のクェーサーが見つかっており、アルマ望遠鏡や、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡での追観測が予定されている。これらの望遠鏡を組み合わせた、多波長での詳細な解析で、GNz7q のような天体が更に続々と見つかるかもしれない。つまり、急速に成長しているブラックホールが、実際にどの程度存在していて、宇宙初期での超巨大ブラックホールの急成長を支えていたかについて、統計的にも調べることが可能になっていくと期待される」とコメントしている。

 

 

( C ) NASA/ESA/S.Fujimoto et al.

地球から約 131 億光年先で発見された、スターバースト銀河内部で急成長中のブラックホールの前駆体となる天体、「GNz7q」(右側の拡大図の中心にある赤い天体)。これまで最もよく研究されている天域のひとつ GOODS-North 領域で見つかった。ハッブル宇宙望遠鏡による3色の観測データを合成することで、画像に色をつけている。

 

 

( C ) ESA/Hubble, N. Bartmann

超巨大ブラックホールの前駆体となる天体「GNz7q」の想像図。スターバースト銀河の中心において、急激に成長している若いブラックホールが、周りを覆う濃いガスや塵を吹き飛ばし、姿を現しつつある。