フラッシュオーロラの解析からコーラス電磁波発生域の電磁波周波数特性を解明

5月21日

 

 

 金沢大学の尾﨑光紀准教授を中心とする共同研究グループは11日、アラスカにおける数百ミリ秒しか発光しない雲状のフラッシュオーロラ現象の地上観測とコンピュータによる数値計算から、宇宙で発生するコーラス電磁波(*注1)の発生域における周波数特性を明らかにしたと発表した。宇宙のコーラス電磁波発生域において、コーラス電磁波が低周波から高周波にかけて連続的に存在していると、観測されたフラッシュオーロラ現象の説明がつくとしている(図2)。今回の研究成果は地球周辺のプラズマ環境を理解する上で重要な研究成果である。

 

 オーロラの基となる電子は、磁石になっている地球の磁場によって捉えられるため、通常は大気中に降下することができず、オーロラは生じない。しかしこの電子が地球の磁場を沿って極地方に移動し、大気上層の酸素分子や窒素分子と衝突することで、オーロラ現象が発生する。オーロラを調べることは、オーロラの基となる電子がどのような物理過程を経て地上へ降下してきたかを知る重要な手がかりとなる。アラスカでは、わずか数百ミリ秒しか発光しない雲状のフラッシュオーロラが観測されており、これは、宇宙のコーラス電磁波によって電子が瞬時的に揺さぶられることで発生していることが明らかにされていた。コーラス電磁波は、地球周辺のプラズマを放射線になるまで加速させる効果があり、コーラス電磁波は、電子ジャイロ周波数(*注2)の半分を基準に、高周波コーラスと低周波コーラスに分かれて観測される。またコーラス電磁波の周波数により、コーラス電磁波が影響を与える電子エネルギーは異なる。このため、宇宙のコーラス電磁波発生域におけるコーラス電磁波の周波数分布を明らかにすることは、地球周辺プラズマ環境の理解に重要である。しかし、コーラス電磁波は発生域から離れて伝搬するため、科学衛星による電磁波観測だけでは発生域と発生域から離れた位置のコーラス電磁波の周波数分布を区別することが困難であった。

 

 本研究グループは、コーラス電磁波発生域における周波数分布を特定すべく、コーラス電磁波に伴い発生するフラッシュオーロラの時間特性から、宇宙のコーラス電磁波の周波数分布を調べることとした。低いエネルギーのオーロラを光らせる電子は地上に遅く到達、高いエネルギーの電子は地上に速く到達し、電子エネルギーはコーラス電磁波の周波数と関係するため、オーロラの時間特性から宇宙のコーラス電磁波を調べられると考えたためである。具体的には、アラスカに設置したハイスピードカメラ(1秒間に100枚)で撮影された暗いフラッシュオーロラの時間変化をレベルセット法と呼ばれる輪郭形状進化を追跡できる画像処理法を用いて詳細に調べることとした。レベルセット法は、詳細な輪郭形状進化を追跡できる画像処理法として、医用画像処理、防犯カメラ処理などにも使われている。詳細な画像解析の結果、水面に滴る水滴がつくる波紋のように徐々に水平方向の大きさを拡大させながら、最大サイズに広がった後に徐々に縮小するような発光変化を示すオーロラでは、オーロラの縮小する時間が拡大する時間よりも平均で1.7倍も長くなることを見出した(図1)。この要因を明らかにするために、電離圏でのフラッシュオーロラ発光がどのように変化するか、宇宙のコーラス電磁波の特性を変えながら数値計算を行った。その結果、観測されたようなフラッシュオーロラを再現するには、縮小する時間が拡大する時間よりも長くなるように、宇宙の発生域で低周波コーラスと高周波コーラスの周波数分布が連続している必要があることを明らかになった(図2)。高周波コーラスは、より低いエネルギーの電子に影響するため、発生域から地球までの移動速度が遅くなる低いエネルギーの電子がオーロラの縮小する時間を決めていたことになるとしている。これまでは、衛星位置において低周波コーラスと高周波コーラスは、それぞれ分かれて観測されることがあったが、今回の研究においてコーラス電磁波の発生から伝搬までの全ての物理過程を含んだフラッシュオーロラを解析したからこそ、遠くの宇宙で発生するコーラス電磁波の周波数特性を詳細に明らかにすることができたとしている。

 

 コーラス電磁波は、地球だけでなく磁石になっている他の惑星でも観測されている。しかし、磁石になっている水星においてコーラス電磁波はまだ調べられていない。現在、水星に向けて宇宙空間を航行中の水星磁気圏探査機「みお」との電磁波観測と本研究で明らかとなった地球での知見を比較することにより、水星におけるコーラス電磁波の電子への影響が明らかになることが期待されるとしている。

 

*注1 電子が磁力線に沿ってらせん運動すること(サイクロトロン運動)によって生じる自然電磁波のこと。

 

*注2 電子が磁場に対して回転運動する周波数のこと。

 

 

図1 ( C ) 国立極地研究所

フラッシュオーロラの形状変化の様子(観測は縮小に要する時間が長い)。

 

 

図2 ( C ) 国立極地研究所

フラッシュオーロラの数値計算結果。(上:低周波コーラスのみで生じるフラッシュオーロラ、下:低周波コーラスと高周波コーラスによって生じるフラッシュオーロラは観測された縮小時間が長くなる特徴を再現)