なぜ天王星が海王星よりも薄い青色に見えるのか

6月4日

 

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, A. Simon (Goddard Space Flight Center), and M. H. Wong (University of California, Berkeley) and the OPAL team.

左が2021年10月25日にハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された天王星の姿。極地方には白く映る極雲の姿が見える。右側は2021年9月7日にハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された海王星の姿。北半球に黒い部分が存在するが、これはダークスポットと呼ばれる台風を示している。両惑星を比べると天王星の方が海王星よりも淡い青色をしている。

 

 オックスフォード大学のPatrick Irwin教授(惑星物理学)を中心とする研究チームは、5月31日、天王星(uranus)と海王星(neptune)のエアロゾル(*注1)の大気構造について調べるべく、ハッブル宇宙望遠鏡などの数年に渡る観測データを解析した結果、両惑星の色の違いを表現する観測データに合った大気モデルを構築することに成功したと発表した。この大気モデルでは、天王星におけるエアロゾルによる過剰なくすみが、大気をよどんだものにし、対流活動を停滞させることによって、海王星よりも薄い青色に見えることを説明できるとしている。その一方で海王星はエアロゾルの一種であるメタンガスの氷が対流活動によって雪となり、それが降ることで空気のよどみを解消し、濃い青色の姿を表すとしている。今回構築された大気モデルは、天王星、海王星に似た巨大氷を持つ惑星の大気構造を調べることができるとともに、最近ハッブル宇宙望遠鏡で観測される天王星、海王星における台風、「ダークスポット」の構造解明にもつながる重要な成果であるとしている。

 

 天王星と海王星は質量、大きさ、大気の組成がよく似ている(*注2)が、図1のように色の見え方が明らかに異なっている。海王星は濃い青色に見えるが、天王星の方はシアンの淡い色に見える。この色の違いはエアロゾルで構成された大気層の構造に違いがあることが要因であるとこれまで考えられてきた。これまでの調査においては、両惑星の大気上層について、特定の波長領域に絞って観測が行われてきたが、有効な色の違いを示す要因を特定することができなかった。

 

 研究チームは天王星、海王星の3つの大気層に注目し、ハッブル宇宙望遠鏡などの数年にわたる解析データのうち、紫外線から可視光、赤外線(0.3~1マイクロメートル)にいたるまでの様々な波長のデータを解析することで、解析データにあった大気構造モデルの構築を目指すこととした。また大気モデルでは、過去の知見から、メタンや硫化水素化合物の氷を含んだ雲で構成されるエアロゾルを含むモデルにすることとした。実際にデータを解析した結果、3つの大気層のうち、中間層が両惑星の色の違いに影響を与えることが判明した。またこの中間層は海王星よりも天王星の方が分厚いものであることがわかった。研究チームは、両惑星の中間層においてメタンガスの氷がこの中間層で凝縮し、対流活動が活発になることで雪をふらせる構造になっていると考えており、海王星ではこの対流活動が活発であるがために、メタンガス粒子を雪に換えてそれを降らせることで、空気のよどみを消しているという結論に至った。海王星では空気のよどみが少ないために天王星よりも濃い青色に見えるということである。もしこのようなよどんだ大気層がなければ、両惑星とも大気によって散乱された青い光が同じようにみえるになるはずであると研究チームは説明している。

 

 共同研究者のカリフォルニア大学のMike Wong氏は「今回構築された大気モデルによって、他の惑星における天王星と海王星のような巨大氷のような大気構造における雲やよどみについて今後理解を深めることが可能である。」とコメントしている。また研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡のデータを更に解析することによって今回発表された大気構造理論の確証を得ていくことを目指すとしている。

 

 またこれまでに天王星と海王星では「ダークスポット」と呼ばれる台風がハッブル宇宙望遠鏡に搭載されたWFC3によって可視光で見つかっている。天王星では空気がよどんでいるため、このダークスポットがしばしばみられる程度だが、空気の澄んでいる海王星ではよくみられる。しかしこのダークスポットが両惑星のどの大気層において起きているのかがわかっていない。またこのダークスポットがどのようにしてもたらされるのか、大気層がよどんでいるためにダークスポットを捉えることが難しい天王星におけるダークスポットの出現頻度などが、今回構築された大気モデルを用いて解明されることも期待されている。

 

*注1 気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体をエアロゾル(aerosol)という。エアロゾル粒子は気象学的には,視程や色の違いなどから,霧(fog)、もや(mist)、煙霧(haze)、スモッグ(smog)などと呼ばれることもある。

 

*注2 天王星の質量は地球質量の約15倍、海王星は地球質量の約17倍である。両惑星とも大部分が水、アンモニア、メタンの氷からできており、中心には岩石からなる小さなコアがあると考えられている。外層は水素とヘリウムを主成分とする大気であるが、これらが主成分である木星や土星とは異なり、大気は少ない。このため木星や土星とは区別して、天王星、海王星の2つを巨大氷惑星と呼ぶことも多い。