初期宇宙での銀河回転の始まりを捉えた

7月6日

 

 

 

( C )  ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

地球からしし座方向132.8億光年離れた場所にある銀河MACS1149-JD1の想像図。地球から最も離れた場所にある正確な距離が測られた銀河である。

 

 早稲田大学大学院先進理工学研究科の徳岡剛史氏を中心とする研究チームは1日、アルマ望遠鏡による観測により、地球からしし座方向約132.8億光年離れた場所にあるMACS1149-JD1と呼ばれる銀河を観測した結果、微弱ながらも50km/sで回転していることが判明したと発表した(図1)。天の川銀河が220km/sで回転していることと比べると回転運動は弱いが、回転運動が発達していくそのはじまりを捉えたという点で重要な成果である。さらに銀河の直径が約3,000光年、質量が太陽の約10億倍であることも判明した。今回の研究成果は、銀河の形成過程を理解するための大きな手がかりとなることが期待されるとしている。

 

 MACS1149-JD1銀河は2018年に酸素が発見された銀河の最遠方記録として注目を集めた。またこの時にMACS1149-JD1までの正確な距離が見積もられ、正確な距離が測られた銀河の最遠方記録も更新した。

 

 銀河と言えば、私達が住む天の川銀河は円盤状の構造をもち、その円盤は回転運動をしている。天の川銀河の回転速度は220km/sあるが、この猛烈な速さによる遠心力と重力がつりあって円盤の形を保っている。このような回転円盤銀河が、宇宙の歴史上いつごろできたのかということについては長年研究されてきた。最近の研究では、120億年以上前の宇宙でも、巨大な回転円盤銀河や渦巻銀河が見つかっている。一方で130億年ほど前の宇宙の銀河では、ある程度の回転運動が見られるものや、逆に回転運動がほとんど見られないものが見つかっており、銀河の回転運動の起源に迫りつつある状況であった。

 

 宇宙最初期の銀河が回転運動をしているのかどうか調べることは、銀河の形成過程を理解するうえで重要な手がかりになる。回転運動は、例えば、お風呂の水を抜くときに、排水溝に向かう水が渦を作る様子に似ている。もし回転運動をしていれば、銀河へのガスの流入が整然として継続的にあり、その流れの中で星が生み出されて銀河が形作られたと考えられる。逆に回転運動が無ければ、小銀河の衝突を繰り返すような激しい出来事を経て銀河が形作られたと考えられる。

 

 今回研究グループは銀河の回転運動を調べるべく、人類の知る最も遠い銀河の一つである、132.8億光年かなたのMACS1149-JD1銀河をアルマ望遠鏡で観測した。今回の観測では空間分解能を以前の観測時よりも2.5倍高めた観測を行った。その結果、銀河内部の構造や運動を調べることが可能になり、回転運動の兆候をとらえることに成功した(図1)。さらにMACS1149-JD1の質量についても見積もることに成功した。今回の観測から、MACS1149-JD1の直径は約3,000光年と測定され、回転速度の情報と組み合わせると、その質量は太陽の約10億倍になるとしている。これは、以前にMACS1149-JD1のスペクトルの概形と光度から推定された質量と一致している。当時この質量の大半は、観測時点からさらに2~3億年さかのぼった時期に生まれた恒星たちで担われていると結論づけられている。したがってMACS1149-JD1は、ビッグバン後2.5億年頃に形成された銀河であり、観測時点(5億年頃)には、その回転円盤を形作り始めた段階にあることがわかる。

 

 今回研究チームは、現在観測可能な最古の宇宙での銀河形成に関して、天の川銀河のような円盤銀河の誕生の瞬間に迫る成果を得ることに成功した。昨年12月に打ち上げられたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を使えば、今回とは別の波長帯のさらに高空間分解能の観測が可能である。MACS1149-JD1もジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の初年度のターゲットとなっており、年齢3億年の若い恒星でできた回転円盤や、誕生直後の若い恒星の分布などが明らかになることが期待される。研究チームは今後もMACS1149-JD1の構造を明らかにするために研究を続けるとしている。

 

 

図1 ( C ) Tokuoka et al.

アルマ望遠鏡で取得したMACS1149-JD1の観測速度マップ。等高線はO2+イオンガスの明るさ分布を表し、速度測定が十分にできた領域のみ、青から赤のグラデージョンでガスの速度を表す。赤色は私たちから遠ざかる方向に、青色は私たちに近づく方向にガスが動いていることを示す。赤から青へのグラデーションが見えていることは、ガスが円盤状に回転している可能性を示す。速度の単位はkm/s。左下の楕円は観測データの空間解像度のサイズを表す。(右図)回転速度などの物理量を導出するために作成した、速度マップに対するベストフィットモデル。

 

 

 

( C ) Tokuoka et al.

MACS1149-JD1の回転運動と後の時代の銀河の回転運動の比較。回転速度と速度のバラつきの比が大きいほど、回転運動が支配的であることを示す。