ジェイムズ・ウエッブ宇宙望遠鏡によって捉えられたステファン5つ子銀河の詳細な姿

7月16日

 

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, CSA, and STScI

JWSTの中間赤外線、近赤外線によって捉えられたステファン5つ子銀河の姿。

 

 NASA/ESA/CSAは12日、共同運用するジェイムズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)によって捉えられた、ステファンの5つ子銀河(図1)を含むいくつかの中間赤外線、近赤外線による天体の画像を公開した。ステファンの5つ子銀河は名前の通り5個の銀河で構成されており、銀河の重力相互作用によって衝突をしている銀河も存在する。JWSTによってこの銀河団の詳細な内部構造が捉えられ、銀河団内部の星形成や、内部に存在するブラックホールまわりのガスの分布・速度構造の詳細な姿が明らかになった。今回はステファンの5つ子銀河を例にして、JWSTによって明らかになった物理的性質を紹介する。

 

 JWSTは月の直径の1/5ほどの分解能を持ち、今までの宇宙望遠鏡に比べて高性能であり、銀河団の進化や初期宇宙の新たな描像をもたらすことが期待されている。ステファンの5つ子銀河の例でいえば、JWSTは1億5000万ピクセルほどに写真を分解することができる。

 

 ステファンの5つ子銀河はNGC7317、NGC7318A、NGC7318B、NGC7319、NGC7320の5つの銀河で構成される。ペガスス座の方向にあり、1877年にフランスの天文学者エドゥアール・ジャン=マリ・ステファン氏が発見した。このうちのNGC7320は他の4つの銀河に比べて前景にあり、地球から約4000万光年の距離にある。NGC7320以外の銀河は地球からおよそ2億9000万光年の距離にある。ステファンの5つ子銀河団は他の銀河団に比べて我々に近い距離にあり、この銀河団を研究することで、数十億光年の遠い距離にある銀河団の構造解明につなげることが可能であるとされている。またNGC7319には活動銀河核が存在すると考えられており、その中心には太陽質量の2400万倍の質量を持つブラックホールが存在すると考えられている。NGC7318AとNGC7318Bは衝突中の銀河である。このような銀河団は、初期宇宙においてクウェーサーとよばれるブラックホールがガスを吸収することによって光り輝く天体が存在する時期に、普遍的に存在するであろう銀河団として注目されている。

 

 今回のJWSTによるステファン5つ子銀河の観測によって、銀河同士の重力相互作用によってダストや星が引っ張られる様子や、銀河から噴き出すガスの軌跡が捉えられた。さらに5つ子銀河の一つである、NGC7318Bは衝突中の銀河であるが、衝突面において生じる衝撃波がほかの銀河を貫く様子まで捉えられたとされている。またNGC7319の活動銀河核を中間赤外線、近赤外線で調べたところ、活動銀河核から噴き出すガスの中の様々な原子、分子のスペクトルを得ることにも成功した(図2)。またステファンの5つ子銀河をMRIで撮影した画像や、活動銀河核中のブラックホールまわりのガスの速度構造(図3)を捉えることにも成功した。これほどまでに活動銀河核中のブラックホール周りのガスの運動の様子が捉えられたのは今回が初めてである。

 

 今回の観測によって、ステファンの5つ子銀河の中間赤外線や近赤外線による詳細な姿が捉えられた。これらのデータを用いて例えばNGC7319の活動銀河核中のブラックホールがどのように成長してきたかや、他の物理的性質について解明されることが今後期待される。

 

 

図2 ( C ) NASA, ESA, CSA, and STScI
NGC7319の活動銀河核中のブラックホール周りのガスの構成。青色と黄色が水素原子の分布であり、ブラックホールから噴き出すガスの様子を表す。左から2番目のティール色は鉄原子の分布を表しており、ホットガスがどこに存在するかを示す。赤色は水素分子の分布を表し、冷たくて濃密なガスが存在することを示すが、これはブラックホールから噴き出すガスの様子を表すとともに、ブラックホールの燃料となるガスの分布を示している。

 

 

図3 ( C ) NASA, ESA, CSA, and STScI
NGC7319の活動銀河核中のブラックホール周りのガスの速度分布図。アルゴンイオン、ネオンイオン、水素分子の速度構造を表しており、青色が観測者に向かってくる速度成分、オレンジ色が観測者から離れて進んでいく速度成分を表す。アルゴンイオン、ネオンイオンはブラックホールから噴き出す風によって加熱されたガスの代表であり、水素分子は銀河中心にある冷たくて濃密なガスの代表である。