タランチュラ星雲において恒星質量ブラックホールを発見

7月23日

 

 

 

( C ) ESO

VLT望遠鏡によって撮影されたタランチュラ星雲(上部)。タランチュラ星雲までの距離はおよそ16万光年。タランチュラ星雲の左下には球状星団が存在する。

 

 ベルギー・ルーベンカトリック大学のTomer Shenar氏を中心とする研究グループは18日、VLT望遠鏡(ESOのVery Large Telescope)の多波長観測により、天の川銀河近傍にある銀河・大マゼラン雲のタランチュラ星雲において、恒星質量ブラックホールを発見したと発表した。天の川銀河の外において、恒星質量ブラックホールが見つかったのは今回が初めてである。今回見つかった恒星質量ブラックホールは、星が事前に大きな爆発現象であるスーパーノヴァ爆発現象を伴うことなく、星の重力によって直接崩壊したブラックホールであるとしている。今回の研究成果は、近年科学者の間で考えられてきたスーパーノヴァ爆発現象を伴わない星の直接崩壊によるブラックホール形成理論を支持するとても重要な成果である。

 

 恒星質量ブラックホールは、大質量星がその生涯を終える際に自らの重力によってつぶれることで形成される。もし連星系においてこのような過程でブラックホールができると、もう一方の明るく輝く星(伴星)とともに共通重心のまわりを公転する連星系となる。ブラックホールは普段はまわりのガスを取り込んで高い強度のX線を放射するが、もしX線を放射していないときは休止状態であると判断される。このようなX線を放射していない休止状態のブラックホールを探すことがブラックホールの発見に至る方法のひとつである。しかし休止状態のブラックホールは、まわりのガスなどと相互作用をしていないため、その検出は難しい。

 

 研究チームは天の川銀河外でブラックホールを探すべく、ブラックホールの休止状態の性質を用いて、大マゼラン雲内のタランチュラ星雲における1000もの大質量星を観測して伴星としてブラックホールがないかどうかを調べた。その結果、VFTS 243と呼ばれる連星系において、恒星質量ブラックホールを発見した。ブラックホールの質量は少なくとも太陽質量の9倍、伴星の青い星の質量は太陽質量の25倍ほどである。またこの恒星質量ブラックホールの形成過程において、星が重力崩壊してブラックホールになる際に、事前にスーパーノヴァ爆発現象を伴うことなく、ブラックホールに直接なったことが示唆されるとしている。近年において、星がスーパーノヴァ爆発現象を起こさずに”direct-collapse”(直接崩壊)によってブラックホールが形成されたとされる理論が生み出されたが、今回の研究成果はまさに星の直接崩壊によるブラックホール形成論を支持するものである。

 

 研究チームは今回ブラックホールの休止状態の性質を用いて、大マゼラン雲において恒星質量ブラックホールを発見したが、我々が住む天の川銀河、その近傍銀河である大マゼラン雲において数千もの恒星質量ブラックホールが存在すると予測している。研究チームの一人であり、今回発見された恒星質量ブラックホールの存在が正しいかどうかを検証したアメリカ・スミソニアン天体物理観測所の El-Badry氏は「引き続きVLT望遠鏡による恒星質量ブラックホールの検出を行っていき、星の直接崩壊によるブラックホール形成理論が正しいかどうかを検証していく」と今後の抱負についてコメントしている。

 

 

( C ) ESO/L. Calçada

VFTS 243連星系を近くで見るとどのように見えるのかのイメージ図。実際の天体の大きさとしては、青い星がブラックホールよりも20万倍以上大きな星として見られるようである。ブラックホールによる重力レンズ効果も表現している。