ガンマ線バーストは遠方宇宙までの距離を測る「ものさし」

7月30日

 

 

 

図1 ( C ) 国立天文台

本研究のイメージ画像。ガンマ線バースト(ジェットを噴き出している光点)を用いて宇宙の膨張を測定することが可能になった。

 

 国立天文台のマリア・ダイノッティ助教授を中心とする国際研究チームは21日、すばる望遠鏡などによるアーカイブデータを解析することで、宇宙で最もエネルギーの高い爆発現象の一つであるガンマ線バーストを「ものさし」として、132 億光年までもの宇宙の距離を測定する方法を発見したと発表した。ガンマ線バーストの残光の明るさが一時的にほぼ一定となる「プラトー」が標準光源となり、その光源までの距離を測ることによって遠くの宇宙までの距離を測ることができるとしている。今回の研究成果は初期宇宙の膨張率を独立に測定し、その進化を探る新たな手段を提供する重要な研究成果である。

 

 ガンマ線バーストは、大質量星が生涯を終えた後に起こす超新星爆発や、二重中性子星連星が合体した際に、多大なエネルギーがガンマ線としてバースト的に放出される現象のことである。秒程度から数時間にわたってガンマ線がバースト的に放出され、その後数日間にわたりアフターグロー(残光)が観測されることもある。英語のgamma-ray burstを略してGRBとも呼ばれる。

 

 広大な宇宙の奥行きを測るために、天文学者は「標準光源」と呼ばれる真の明るさが常に同じである天体を見いだし、それを利用してきた。真の明るさと観測上の明るさを比較することで、標準光源までの距離や同じ領域にある他の天体までの距離を知ることができる。これまでに遠方宇宙の標準光源として用いられてきた超新星爆発は、110 億光年までの距離を測ることができる。その一方でガンマ線バースト(GRB)は宇宙で最も明るい天体現象であり、GRB を標準光源として用いることができれば、132 億光年という遙かに遠い距離まで測れる可能性があると考えられていた。GRB の発生後は、数日にわたって、残光が観測されるため、その残光を標準光源として利用することが期待されていた。

 

 今回研究チームは、すばる望遠鏡などの複数の望遠鏡で観測された 500 個の GRB の可視光データを解析し、その光度曲線の特徴を調べた。その結果「プラトー」と呼ばれる、残光の明るさがほぼ一定の部分を持つ 179 個の GRB が標準光源となることを示すことに成功した(図2)。また179個のGRBについて、「GRB のピーク時の明るさ」、「プラトーの継続時間」、「プラトーが終了した時の明るさ」を3軸に取ったときの GRB の3次元分布を作成した結果、179 個の GRB がある平面上に分布することを示すことに成功した(図3)。この3軸の相関関係を利用して、これらの GRB の絶対光度(真の明るさ)を求めることが可能になるとしている。研究チームは2016 年にX線観測でも同様に、残光の明るさがほぼ一定の部分を持つGRBを発見しているが、可視光観測で得られた関係も合わせることで、より正確な距離の測定が可能になるとしている。さらに、可視光観測で得られた関係を利用することによって、宇宙の膨張率などの宇宙論パラメータがより高い精度で求められることがシミュレーションからわかったとしている。また研究チームはX線と可視光の両データを用いてGRBの波長依存性を調べた結果、プラトーを示す 179 個の GRB は、高速回転する中性子星(マグネター)に由来する可能性が高いと結論づけた。

 

 ダイノッティ助教は「今回、可視光で初めて発見された3次元的な相関関係は、選択バイアスや赤方偏移によらない本質的なものです。そのため、これらの特徴を示す 179 個の GRB に共通する放射メカニズムを特定することができるのです。将来的には、高い精度で宇宙論パラメータを求められる、宇宙論的な標準光源として利用できると考えられます」と本研究の意義についてコメントしている。

 

 

図2 ( C ) Maria Dainotti et al.

GRB の光度曲線 (明るさの時間変化) の一例。研究チームは残光の明るさがほぼ一定の「プラトー」の期間を持つ 179 天体に注目し、「GRB のピーク時の明るさ」、「プラトーの継続時間」、「プラトーが終了した時の明るさ」の3つのパラメータの関係を調べた。

 

図3 ( C ) Maria Dainotti et al.

 

「GRB のピーク時の明るさ」、「プラトーの継続時間」、「プラトーが終了した時の明るさ」を3軸に取ったときの GRB の分布。研究チームは、179 個の GRB がある平面上に分布することを示した。この3軸の相関関係を利用して、これらの GRB の絶対光度(真の明るさ)を求めることが可能になる。