ジェイムズ・ウエッブ宇宙望遠鏡によって捉えられた「車輪銀河」の詳細な姿

8月6日

 

 

 ESA(ヨーロッパ欧州宇宙機関)は2日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡の赤外線観測によって捉えられえた車輪銀河の詳細な姿の画像を公開した(図1(近赤外線と中間赤外線による合成画像)、図2(中間赤外線画像))。近赤外線観測では、車輪銀河中の個々の星の姿や星形成領域を写すとともに、銀河中心にあるブラックホールの活動の様子(活動銀河核)も捉えた。さらに中間赤外線画像によって、2018年にハッブル宇宙望遠鏡によって捉えられた車輪銀河のスパイラル状のスポーク(車軸とリングをつなぐ棒)の詳細な姿も捉えることに成功した。今回得られた画像は、10億年以上の歴史を持つ車輪銀河の形成史を紐解くうえで重要な資料となる。

 

 車輪銀河は、ちょうこくしつ座方向約5億光年先にある渦巻銀河である。その名前の通り、車輪に似た銀河は、4億年前に巨大な渦巻銀河と小さな銀河の高速度同士の衝突の結果生み出されたと考えられている。衝突する前は我々が住む天の川銀河と同じ渦巻銀河をしていたと考えられている。

 

 銀河同士の衝突によって形成された銀河は、その衝突が銀河の形や構造に影響をもたらす。車輪銀河は内側と外側に明るく輝くリングが存在するが、池に石を落とした時の波紋のように、銀河同士が衝突した際に、衝突面の中心から外側にかけて衝撃波のように広がるリングが出来上がったと考えられている。この性質は天の川銀河には存在せず、その特徴から“リング銀河”とも呼ばれている。車輪銀河中心には古くから存在する星が存在し、外側のリングには新しい星やスーパーノヴァ爆発現象を起こす新星が存在する。リングが外側に広がるにつれて、周りのガスを巻き込みながら星形成領域ができるため、外側には比較的新しくできた星が存在するわけである。

 

 今回ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡の赤外線、中間赤外線(MIRI)によって車輪銀河の詳細な姿が捉えられた(図1、2)。車輪銀河中心はとても明るく輝いているが、この場所は活動銀河核であると考えられている。そこには巨大ブラックホールがあり、重力によって集められたガスや塵が降着円盤を作り、重力エネルギーが解放されることで明るい光を放出している。また中間赤外線(MIRI)による観測ではオレンジ色が炭化水素、青色の部分が地球にも存在するシリカなどの化合物がある場所を示している。シリカで構成される星は、車輪銀河の骨ともいえるスパイラル状のスポークを形成していることがわかる。これらのスポークは2018年にハッブル宇宙望遠鏡のデータ解析によって存在が明らかにされていたが、今回のジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡によって詳細な姿が捉えられたこととなる。

 

 今回ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡によって車輪銀河の詳細な姿が捉えられたが、車輪銀河が今度どのように変化していくのかや、2つの伴銀河にどのような作用を及ぼすのかが今後の研究課題としてあげられるとしている。

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, CSA, STScI

近赤外線、中間赤外線による車輪銀河の観測の合成画像。赤色の部分は炭化水素がある場所を示しており、2つの伴銀河のうち、上の銀河も炭化水素が豊富なことがわかる。青色のドットは個々の星や星形成領域があることを示している。

 

 

図2 ( C ) NASA, ESA, CSA, STScI

中間赤外線によって観測された車輪銀河。青色の部分はシリカ化合物がある場所を示している。外側のリング右下のオレンジ色の部分は炭化水素がある領域を示し、若い星が形成されていることを示している。