ハビタブルゾーンに位置する赤色矮星周りの太陽系外惑星を発見

8月13日

 

 

 国立天文台ハワイ観測所の原川紘季研究員を中心とする研究グループは7月31日、すばる望遠鏡に搭載された赤外線分光器 IRD を用いた観測により、「ロス508」と呼ばれる赤色矮星まわりにおいて、地球の約4倍の質量の太陽系外惑星「スーパーアース」、「ロス508b」を発見したと発表した。赤外線観測によるドップラー法とトランジット法(*注1)を組み合わせて太陽系外惑星の発見に至ったのは、今回が初めてであるとしている。赤色矮星は表面温度が4000度以下の低温であり、可視光で見るととても暗い天体であるが、赤外線観測では比較的明るく捉えることができることを利用して、今回の発見に至った。赤色矮星が可視光観測では捉えることが難しいことから、赤色矮星周りの惑星は、これまでは「プロキシマ・ケンタウリb」を含む3例しか見つかっていなかった。また「ロス508b」は、ハビタブルゾーン(*注2)付近に位置しているため、惑星表面では水が液体で存在する可能性があるとしている。今後、低温度星まわりの生命居住可能性について検証するための重要な観測対象となる。

 

 赤色矮星は天の川銀河の恒星数の4分の3を占め、太陽系の近くにも数多く存在することから、私たちの近くにある系外惑星を発見するのに絶好の観測対象である。今回観測対象となった「ロス508」は地球から約 37 光年離れた位置にあり、太陽の5分の1の重さである。大気や表層の詳細な観測が可能な、近傍の系外惑星を発見することによって、太陽系とは大きく異なる環境での生命の有無を議論することができるようになるとして、科学者の間で注目を集めている。

 

 しかし赤色矮星は表面温度が 4000 度以下と低温で、可視光では非常に暗い天体であるため、これまでは観測が難しかった。とりわけ、表面温度が 3000 度以下の赤色矮星(晩期赤色矮星)では系統的な惑星探査が行われていなかった。そのため赤色矮星が比較的明るく捉えられる赤外線での、高精度分光器による惑星探査が待たれていた。例えば、30 光年離れた位置から見た太陽の明るさは、可視光では5等級、赤外線では3等級である。その一方、最も軽い晩期赤色矮星は可視光では 19 等級と非常に暗いが、赤外線では 11 等級と比較的明るく映るため、赤外線観測による太陽系外惑星探査が待たれていたわけである。

 

 赤外線観測による太陽系外惑星探査を実現すべく、アストロバイオロジーセンターは、8メートル級望遠鏡用としては世界初の高精度赤外線分光器の開発に成功した。これがすばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置 IRD (InfraRed Doppler) である。ドップラー法を用いて、人が歩く速さ程度の、恒星の微少な速度のふらつきを検出することが可能である。恒星の微妙なふらつきを観測することで、そのまわりにある惑星がどのような軌道運動をしているかを確認することができる。しかし赤色矮星の表面ではフレアと呼ばれる活動が盛んであり、惑星が存在しなくともその表面活動が恒星の視線速度に変化を与える可能性があるため、観測にあたっては赤色矮星の表面活動ができるだけ小さいものを観測することが重要となる。

 

 今回研究チームは2019年から始められたIRDによる赤色矮星周りの惑星探査プロジェクトの一環として、IRDの観測データを利用して、「ロス508」まわりの太陽系外惑星「ロス508b」を発見することに成功した。ロス508bは、トランジット法と組み合わせることによって、地球の約4倍の最低質量しかないことが判明した。また中心星からの平均的な距離は地球・太陽の距離の 0.05 倍であり、ハビタブルゾーンの内縁部にあるとしている。興味深いことに、この惑星は楕円軌道を持つ可能性が高く、その場合は、約 11 日の公転周期でハビタブルゾーンを横切ることになる(図1、図2)。ハビタブルゾーンにある惑星は表面に水を保持し、生命を宿す可能性がある。したがってロス508bは、今後、赤色矮星まわりの惑星の生命居住可能性について検証するための重要な観測対象となるとしている。

 

 IRD-SSP を率いる佐藤文衛・東京工業大学教授は「IRD 計画の開始から 14 年。私達は、まさにロス508b のような惑星を見つけたいと思って開発・研究を続けてきました。今回の発見は、IRD の高い装置性能とすばる望遠鏡の大口径、そして集中的かつ高頻度のデータ取得を可能にした戦略枠観測の枠組みがあって初めて実現したものです。IRD-SSP は、低温赤色矮星という未踏の恒星まわりの惑星を今後も精力的に探査し、新たな発見を目指していきます」と今後の抱負についてコメントしている。

 

*注1 恒星の前面を惑星が横切る際の、恒星の明るさの変化を検出することによって、惑星が存在することを確認する方法。トランジット法は、分光を行うドップラー法ほど多くの光子を必要としないため、トランジット法による赤色矮星まわりの惑星探査が近年進んでいる。

 

*注2 地球と似た生命が存在できる惑星系の空間。生命居住可能領域、生存可能圏などとも呼ばれる。液体の水が天体表面に安定に存在できる条件(表面温度が0℃~100℃の範囲)から求められる。恒星からの距離だけではなく、惑星に大気が存在することも重要な要素である。

 

 

図1 ( C ) アストロバイオロジーセンター

今回発見された太陽系外惑星系の模式図。緑の輪は、惑星の表面に液体の状態で水が存在できるハビタブルゾーン (HZ) を表す。惑星「ロス508b」は、中心の赤色矮星「ロス508」を楕円軌道 (水色の線) で周回している。その軌道の半分以上は HZ より内側 (実線部分)、残りは HZ の中にある (破線部分) と研究チームは推定した。

 

 

図2 ( C ) アストロバイオロジーセンター

IRD で観測した恒星「ロス508」の視線速度の周期的な変化。惑星「ロス508b」の公転周期 (10.77 日) で折り返してある。ロス508の視線速度の変化は秒速4m弱しかなく、人が走るよりも遅い程度のごく微小なふらつきを IRD が捉えたことがわかる。赤い曲線は観測値へのベストフィットで、正弦曲線からのずれは、惑星の軌道が楕円である可能性が高いことを示している。