うみへび座TW星まわりの原始惑星系円盤における炭素の同位体比が明らかになった

8月20日

 

 

 総合研究大学院大学/国立天文台の大学院生吉田有宏氏を中心とする研究チームは12日、アルマ望遠鏡で取得されたデータをもとに、新たに開発した手法を用いて、うみへび座TW 星まわり原始惑星系円盤の一酸化炭素同位体比を求めた結果、円盤内側では13(左上付数字、以下同様)COの割合が12COの割合よりも高く、外側ではそれに対して4分の1以下になっていることが判明したと発表した。太陽系の天体では13COの割合と12COの割合が均一であることから、一般的な原始惑星系円盤ではこれらの同位体比が均一であると考えられていたが、この理論を覆すこととなる。またうみへび座TW星まわりの原始惑星系円盤は、原始惑星系円盤の中では比較的歳をとっているものであるが、今回の研究成果は、うみへび座TW星まわりの原始惑星系円盤内の物質の進化が進んでおり、その結果として一酸化炭素同位体比も変化したことを示唆するものであるとしている。また今回の研究成果から、一酸化炭素同位体比が物質のルーツを探る「指紋」として活用されることを示した。この「指紋」を照合することによって太陽系や太陽系外惑星の物質がどこでどのように作られたのか、あるいは、運ばれてきたのか、そのルーツが解き明かされることが期待されるとしている。

 

 うみへび座TW星は年齢およそ1000万歳の若い星であり、地球から175光年の距離にある(図2)。惑星が誕生しつつある星としては地球に最も近い天体のひとつである。中心星をとりまくガスと塵の雲からなる原始惑星系円盤に刻まれた2本の暗い隙間は、そこに惑星があることを示唆し、中心星からの距離が、それぞれ天王星軌道(20天文単位)と冥王星軌道(40天文単位)とほぼ同じである。また中心星の近くでは地球軌道と同程度、1天文単位の半径を持つ隙間も見つかっている。

 

 その一方で私たちが住む太陽系も約46億年前に原始惑星系円盤に似た原始太陽系円盤の中で生まれたと考えられている。その大まかなプロセスはわかりつつあるが、現在の太陽系の惑星や小惑星、彗星などをかたちづくる物質が原始太陽系円盤のどこで作られ、どのように運ばれてきたのかについては謎が多く残されている。その謎を解明するための「指紋」となるのが同位体(質量が異なる同一の元素)の組成である。例えば、地球の水に含まれる重水素(水素の同位体)の割合は、宇宙全体の平均値よりも高くなっていることが知られている。一方で、星が生まれる現場である分子雲に含まれる氷でも、重水素の割合が高くなっている。この二つの「指紋」を照合することで、地球の水の一部は太陽が生まれた分子雲で作られた氷に由来すると推測することが可能である。

 

 これまでに多くの原始惑星系円盤が見つかっているが、太陽系の惑星が生まれた当時の原始太陽系円盤とよく似ていると考えられている。したがって、原始惑星系円盤と太陽系の物質の同位体組成を比較すれば、太陽系の物質が原始太陽系円盤中のどこで、どのように作られたかということがわかる可能性があると考えられている。また太陽系の物質の同位体組成は、隕石やはやぶさなどの探査機により得られる小惑星や彗星のサンプルなどの分析により明らかになっている。しかし、原始惑星系円盤の分子ガス同位体組成の測定はこれまで一部の分子を除き困難であった。これは希少な同位体と豊富な同位体の量を正しく同時に測定することができなかったためである。

 

 研究チームは原始惑星系円盤内の分子ガス同位体組成の測定を正しく行うべく、同位体を含む分子の電波スペクトルの今まで着目されてこなかった一部分を使って、原始惑星系円盤の同位体組成を測定する新たな手法を開発した。さらにその手法をアルマ望遠鏡による観測データに適用し、うみへび座TW星まわりの原始惑星系円盤で、一酸化炭素分子の同位体13COの12COに対する割合を求めることとした。実際に同位体比率を求めた結果、円盤内側では13COの割合が高く、外側ではそれに対して4分の1以下になっているということが明らかになった。うみへび座TW星まわりの原始惑星系円盤は、原始惑星系円盤の中では比較的歳をとっているものであるが、今回の研究成果は原始惑星系円盤内の物質の進化が進んでおり、その結果として一酸化炭素同位体比も変化したことを示唆するものであるとしている。

 

 これまでは太陽系の多くの天体では、12Cと13Cの割合(炭素同位体比)が概ね均一であることから、原始惑星系円盤の13COの12COに対する割合も均一であると予想されていた。しかし今回の研究結果は、13COの割合の方が高くなるという予想外の結果が得られたため、これまでの理論を再考せざるを得ないこととなった。また今回の研究成果からは、炭素同位体比も水素同位体比のように物質のルーツを探るのに役に立つ「指紋」となりうることを示している。実際に隕石中の一部の物質では、炭素同位体比が宇宙全体の平均値から外れていることがわかっている。また最近の太陽系外惑星の大気の観測からは、ある惑星では13COの割合が高く、また別の惑星では13COの割合が小さい、という結果も得られている。このような「指紋」を照合することで、太陽系や太陽系外惑星の物質のルーツが今後解き明かされることが期待される。

 

 吉田有宏氏は「今後、これらの同位体比の変動がどのような要因で起こっているかを明らかにし、より多くの原始惑星系円盤、太陽系外惑星、隕石などの物質の分析を組み合わせることで、太陽系や太陽系外惑星系の物質的起源を探りたいと考えています。」と今後の展望についてコメントしている。

 

 

図1 ( C ) NAOJ

研究結果をもとに作成したうみへび座TW星まわりの原子惑星系円盤中の炭素同位体比の想像図。円盤内縁部の方が、12COに対する13COの割合が高い。

 

 

図2 ( C ) S. Andrews (Harvard-Smithsonian CfA), ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

アルマ望遠鏡によって撮影されたうみへび座TW星まわりの原始惑星系円盤の様子。