小マゼラン雲内にある散開星団NGC346のスパイラル構造を発見

9月11日

 

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, A. James (STScI)

ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された小マゼラン雲内にある散開星団NGC346の姿。

 

 

図2 ( C ) NASA, ESA, A. James (STScI)

NGC346におけるスパイラルパターンが赤い領域で示されている。このスパイラルパターンに沿って星と星の原料となるガスが移動することによって、効率よく星形成が行われる。

 

 Elena Sabbi氏(バルチモアにある宇宙望遠鏡科学研究所)を中心とする研究チームとPeter Zeidler氏(ESAのAURA/STScI)を中心とする研究チームは8日、天の川銀河近傍にある銀河、小マゼラン雲に位置する散開星団NGC346と呼ばれる星形成領域において、スパイラル状に星とガスが外側から中心にかけて落ち込んでいく姿を発見したと発表した(図1、2)。Sabbi氏率いるチームは、ハッブル宇宙望遠鏡によって11年間NGC346における星の動きを観察し続け、Zeideler氏率いるチームは、VLT望遠鏡に搭載された超広視野面分光装置MUSEを用いて星の視線速度の観測を続けた結果、今回の発見に至った。スパイラル状に外側から星とガスが中心に落ち込むことで、効率的に星形成が行われると研究チームは結論付けている。またNGC346は宇宙初期の銀河の構造と似ていると考えられていることから、今回の発見は宇宙初期の銀河における星形成理論を構築する上でも重要な成果であるとしている。

 

 天の川近傍の銀河である小マゼラン雲は、主に水素やヘリウムなどのシンプルな化学物質で構成され、金属などの重い元素に乏しい。そのため、天の川銀河よりも星がその原料となるガスを速く燃焼していく。これらのことから小マゼラン雲は、宇宙初期の銀河と構造が似ていると考えられており、天の川銀河からきょしちょう座方向20万光年しか離れていないにも関わらず、小マゼラン雲が宇宙初期の銀河を再現しているとされている。小マゼラン雲における爆発的な星形成がどのようにして行われるかを研究することによって、ビッグバン(138億年前)が起きてから20~30年後に起こると考えられている爆発的星形成がどのようにして起こるかの理解につながると期待されている。

 

 今回観測対象となったNGC346は小マゼラン雲内にある星形成領域であり、直径150光年、太陽50000個分の質量を持つ散開星団であると考えられている。2つの研究チームはこのNGC346において星がどのように形成され、運動しているのかを解明することを目指すこととした。

 

 Elena Sabbi氏(バルチモアにある宇宙望遠鏡科学研究所)率いるチームはハッブル宇宙望遠鏡を用いて11年間NGC346における星の運動を観測し続けた。その結果、星は平均的に一時間に3200kmほどの速さで移動し、11年間で3億2000万km移動したことが判明した。この距離は地球と太陽の距離のおよそ2倍である。その一方で、Peter Zeidler氏(ESAのAURA/STScI)率いるチームはVLT望遠鏡に搭載された超広視野面分光装置MUSEと呼ばれる観測装置を用いて星と、その星の原料となるガスの視線速度を観測し続けた。この2つのチームは違う方法でNGC346の星の運動がどのようにして行われるかを観測したが、最終的に星とその原料となるガスが外側から中心にかけてスパイラル状に落ち込んでいくという同じ結論に達した。Zeidler氏はこのスパイラル状に落ち込んでいく様子について「スパイラル状はきれい現れており、外側から中心にかけて星形成を効率よく行うために必然的にできあがったものである。このスパイラルに沿って、星とその原料となるガスが星形成領域の中心に移動していくと考えられる」とコメントしている。

 

 Elena Sabbi氏率いるチームは今後もハッブル宇宙望遠鏡のデータを解析し続け、NGC346における星形成の理論の解明を目指していくとしている。またハッブル宇宙望遠鏡は主に大質量星の観測を行っていたが、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡によって将来的にNGC346における小質量星の観測が行われ、小質量星の運動が解明されることが予想される。大質量星と小質量星の比較を行うことによって、NGC346における星の運動や星形成の理解がさらに進むことが期待されるとしている。