ウォルフ・ライエ140において年輪のように広がるダスト・リングを発見

10月15日

 

 

 

図1 ( C ) NASA/ESA/CSA/STScI/JPL-Caltech

ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線カメラ(MIRI)によって捉えられたウォルフ・ライエ140の姿。年輪のようにダスト・リングが広がっている。

 

 NASA/ESA/CSAは12日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の中間赤外線カメラ(以下MIRI)によって捉えられた恒星・ウォルフ・ライエ140の写真を公開した(図1)。ウォルフ・ライエ140は地球から5,000光年離れた連星であるが、写真を見ると指紋のように広がるダストでできたリングが写っている。このリングは少なくとも17個以上あることがわかっている。ウォルフ・ライエ140の連星が近づいたときに、それぞれの星から宇宙空間に向けて噴き出す恒星風が衝突し、ガスが圧縮されて、塵でできたリングが形成される。連星の軌道周期が8年であることから、このリングは8年に1個形成され、木の年輪のように広がっていることがわかる。

 

 JWSTに搭載された中間赤外線カメラ・MIRIは、人間の目には見えない中間赤外線を放射する物体を捉える。中間赤外線を放射する物体は冷たい物体であることを表す。したがって写真に写っているダスト・リングも冷たい物質であるということになる。またMIRIはリング構造における化学組成も特定し、このリングがウォルフ・ライエ140から放出されたものであることも特定した。

 

 ウォルフ・ライエ140は名前のごとく、ウォルフ・ライエ星の一種であるが、ウォルフ・ライエ星は太陽の25倍以上の質量を持ち、その生涯を終えようとしている星である。ウォルフ・ライエ星が生涯を終えると、スーパーノヴァ爆発現象を起こし、重力崩壊によってブラックホールになると考えられている。また生涯を終えなくとも、ウォルフ・ライエ星は絶えず恒星風と呼ばれる星中心から宇宙空間に向けて噴き出すガスの流れが存在し、ガスを宇宙空間に放出している。この恒星風によってウォルフ・ライエ星は自身の質量の半分以上を宇宙空間に放出することになるとされている。ウォルフ・ライエ星は連星系を成しており、それぞれの星が近づいたときに、それぞれの星から噴き出す恒星風が衝突して、リングを構成すると考えられている。なお星を構成する物質は主に水素であるが、水素だけではリングを構成することができない。水素だけでは、中間赤外線で観測されるような冷たいリングにならないからである。リングを作るにはガスを冷やす役割が必要であるが、恒星風から噴き出すガスの流れの中には星の内部に潜んでいる炭素が存在しており、この炭素が宇宙空間に放出されたガスを冷やす役割を担うとされている。

 

 今回ウォルフ・ライエ140にダスト・リングが存在していることがわかったが、他のウォルフ・ライエ星ではダスト・リング構造が見つかっていない。ウォルフ・ライエ140が円軌道ではなく、楕円軌道をしていることにその要因があるとしている。ウォルフ・ライエ140連星のそれぞれの星が太陽-地球間距離になったときにガスを圧縮するだけの衝突が起きるとされているが、それぞれの星がもし円軌道をしていると連続的にダストが生成されるからだとしている。またこのようにしてできたリングはとてもきれいな構造をしているが、リングができると同時に、恒星風の衝突によってリング周りの塵がきれいに除去されることによって、きれいなリング構造ができあがるとしている。このようなリングはかすかな光しか出さないため、JWSTのデータにはない他のリングも存在する。

 

 ウォルフ・ライエ星は太陽に比べて風変わりな星であるが、星や惑星形成に役立つ可能性があると考えられている。ウォルフ・ライエ星の恒星風によって噴き出されたガス・塵が周りに積もっていき、それが新たな星を生み出すという理論が提唱されている。太陽もこのような過程を経て出来上がったという証拠もいくつか提唱されている。今回の観測データによってウォルフ・ライエ星が担う、新たな星・惑星形成理論モデルが提唱されるかもしれない。