初期宇宙におけるクウェーサーまわりに高速軌道運動をする銀河が存在する可能性

10月22日

 

 

 

図1 ( C ) ESA/Webb, NASA, CSA, D. Wylezalek, A. Vayner & the Q3D Team, N. Zakamska

JWSTが捉えた初期宇宙(約115億年前)の赤いクウェーサー(SDSS 165202.64+172852.3)の画像。一番左が、可視光と近赤外線カメラで捉えられた赤いクウェーサー。真ん中、右の写真は多波長で捉えられたクウェーサーまわりのガスの運動(酸素イオンを用いている)の様子を示している。

 

 NASA/ESA/CSAは20日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の近赤外線カメラ((NIRSpec))の面分光観測(IFU)が捉えた、初期宇宙(およそ115億年前)に存在する赤いクウェーサー(SDSS J165202.64+172852.3)まわりの様々な波長で示されたガスの運動の様子の画像を公開した(図1)。またハイデルベルク大学(ドイツ)のDominika Wylezalek氏を中心とする研究チームがこれらのデータを解析した結果、赤いクウェーサーまわりに少なくとも3つ以上の銀河が、お互いの周りを速いスピードで周回している状態で存在することが判明したと発表した。

 

 クウェーサーはとても明るく輝く活動銀河核(ブラックホールの強い重力によって落ち込んできたガスをエネルギー源として、とても明るい光を放出している。)の一種である。クウェーサーの中心にはブラックホールが存在し、そのまわりにいくつかの銀河で構成された銀河団が存在することが知られている。またクウェーサーから噴き出すガスが銀河の中の余分なガスを吹き飛ばし、将来の星形成を促すうえで重要な役割を果たしている。

 

 今回撮影された赤いクウェーサーまわりのガスの運動の写真はJWSTに搭載された近赤外線カメラ(NIRSpec)の面分光観測(IFU)によって捉えられた。写真には酸素イオンの運動の様子が示されているが、これがガスの運動の指標となる。青い光は-350km/sの酸素イオンを表し、これは地球上にいる我々に向かってきていることを示す。黄色い光は370km/sであり、我々から遠ざかる方向に向かっている。そして赤い光は700km/sであり、黄色い光よりもさらに速く遠くに向かっていることを示す。エメラルドグリーンは0km/sであり、視線方向には運動していないことを示している。

 

 ドイツのハイデルベルク大学のDominika Wylezalek氏を中心とする研究チームは、今回捉えられた赤いクウェーサーまわりの近赤外線カメラによるガスの運動の様子のデータを解析した結果、少なくとも3つ以上の銀河がクウェーサー周りに存在していることが判明したと発表した。またこれらの3つの銀河はとても速いスピードでお互いのまわりを回っており、とても大きな質量を持っているとしている。「これだけ大きな質量を持つには、太陽質量の10の13乗ほどの質量を持つ2つのダークマターハローが衝突段階にあることが考えられる。」とWylezalek氏はコメントしている。

 

 今回のJWSTによって撮影された赤いクウェーサーまわりのガスの運動の様子の写真は、初期宇宙において銀河団がどのように形成され、どのように進化してきたかを、研究する上で重要な資料となることがわかった。さらにJWSTの写真によって、ブラックホールがどのようにして形成され、宇宙の構造にどのような影響を及ぼしてきたかが解析されることも期待されている。研究チームは今後、赤いクウェーサーまわりの銀河団がどれくらいの密度で集中しているかや、クウェーサー中心にあるブラックホールが銀河団に及ぼす影響などを調べていくことを目指すとしている。