土星の衛星タイタンの大気や地表面の様子をJWSTが捉えた

12月4日

 

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, CSA, A. Pagan (STScI), JWST Titan GTO Team

ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡のNIRCam(近赤外線観測カメラ)によって撮影された土星の衛星タイタンの姿。左側は下層大気や雲を捉えるフィルターで撮影されており、北半球において雲が写っていることがわかる。右側の写真はカラー合成画像であり、大気や地表面の様子がわかる。「クラーケン海」と呼ばれるメタンの海と考えられている場所や、Beletと呼ばれる砂丘、Adiriと呼ばれるアルベドの高い場所が示されている。

 

 

 

図2 ( C ) ESA/NASA/University of Arizona

2005年にカッシーニ探査機から分離されたホイヘンス探査機が撮影したタイタン地表面の写真。氷塊が散らばっている様子がわかる。

 

 NASA/ESA/CSAは2日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)のNIRCam(近赤外線観測カメラ)によって撮影された土星の衛星・タイタンの大気や地表面の構造を示す写真(図1)を公開した。撮影は11月4日に行われた。左側の写真はタイタンの下層大気の様子と雲を捉えることが可能なフィルターで撮影されたものであり、光り輝く場所において雲が存在することを示しているが、北半球において光り輝く領域がみてとれることがわかる。右側の写真はカラー合成画像であり、大気とタイタン地表面の様子を捉えることができるフィルターで撮影された写真である。北半球においてメタンの海であると考えられている「クラーケン海」の姿が写し出されており、Beletと示されている部分は砂丘、Adiriは光の反射率(アルベド)が高いところを示している。今回の観測結果によって、タイタンの特徴を解明する上で大きな一歩を踏み出したこととなる。

 これまでタイタンの大気がどのようになっているのかは、科学者の間で大きな謎であるとされていた。具体的には大気の成分がどのように構成されているか、天候がどのように移り変わっていくか、タイタン表面におけるアルベド(光の反射率)がどのようになっているかなどの謎があげられる。これらの謎を解決するために、科学者の間では、JWSTによるタイタンの赤外線観測が行われることが期待されていた。

 

 タイタンは半径2575km、質量1.345×10の23乗kgの天体である。窒素を主成分とする厚い(表面で1.5気圧)大気が存在し、大気には3%のメタンが含まれており、太陽系の中で唯一、密度の濃い大気を持つ衛星である。また太陽系の中の惑星として、地球と同じように川、湖、海がある唯一の天体である。みなさんは、川、湖、海が存在すると聞いて、水の液体が存在すると想像されるだろう。しかしタイタンに存在する液体は水ではなく、エタンやメタンを含む炭化水素化合物でできている。これらの液体から蒸発した気体で構成された濃厚で分厚いもやが大気を構成しており、これらの大気によってタイタンからの可視光線が遮られている。そのため、これまでのところ人工衛星からはタイタンの可視光画像は得られていない。2005年には、カッシーニ探査機から分離されたホイヘンス探査機が、その着陸地点において10-20 cmほどの氷塊が散らばっていることを確認し(図2)、土壌には液体のメタンが含まれていることも判明した。

 

 今回のJWSTに搭載されたNIRCam(近赤外線観測カメラ)によるタイタンの撮影によって、その大気構造や地表面の様子がどのようになっているのかが明確に示された(図1)。JWSTは2023年5月もしくは6月にも、今回のNIRCamによる撮影に加えて、MIRI(中間赤外線観測カメラ)による撮影を予定している。MIRIによって、これまでに観測されたことのない波長の光が、タイタンから発せられる様子を捉えることが期待されている。そうすることでタイタンの大気の複雑なガス構造や、なぜタイタンが太陽系の中で唯一濃い大気を持つ衛星なのかどうかを解明することができるかもしれない。