これまで観測された中で宇宙最遠方の星の潮汐破壊現象を発見

12月10日

 

 

 

図1 ( C ) ESO/M.Kornmesser

ブラックホールによる星の潮汐破壊現象を示すイメージ図。ブラックホール近くにある星はブラックホールの強大な重力によって引き寄せられて、崩壊し、ブラックホールまわりの円盤をつくる。円盤の一部はブラックホールの極からプラズマ状態の気塊で構成されるジェットとして噴き出す。今回のデータ解析では、このジェットを捉えることによって、星の潮汐破壊現象が認識された。

 

 イングランド・レスター大学のNial Tanvir氏を中心とする国際研究グループは11月30日、ESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT望遠鏡とカリフォルニア工科大学の光学観測装置ZTFを用いた観測のデータを解析した結果、宇宙誕生から年齢のおよそ1/3を経過(46億歳頃)に起きた星の潮汐現象を捉えることに成功したと発表した。これらの望遠鏡が今年の2月にAT2022cmcと呼ばれるガンマ線バーストを捉えて、そのデータを解析した結果、ガンマ線バーストが星の潮汐破壊現象によって生じたブラックホールから噴き出すジェットであることが判明したことに由来する。今回用いた観測データは赤外線や、紫外線観測のデータも含まれているが、今回は可視光線による観測データからも星の潮汐破壊現象を捉えることができた。ブラックホールから噴き出すジェットが地球の我々に向かって伸びてきているために、可視光線でも観測することが可能になったとしている。可視光線のデータから星の潮汐破壊現象を捉えることができたのは今回が初めてのことであり、今後の星の潮汐破壊現象の観測に向けて大きな一歩を踏み出したこととなる。

 

 星がブラックホールの近くを通過すると、ブラックホールの強大な重力によって星が引き寄せられて、破壊される現象のことを星の潮汐破壊現象(Tidal disruption event (TDE))と呼ぶ。それらの破壊された星のうち、1%の質量がプラズマの気塊となり、回転するブラックホールの極からジェットとして放出されることとなる。この星の潮汐破壊現象に由来するブラックホールからのジェットは、これまでX線でしか観測することができていなかった。

 

 研究チームはブラックホールから放出されるジェットがどのようにして作り出されているのか、またなぜ潮汐破壊された星の1%というわずかな量の質量がジェットとして放出されるのかについて研究を行っており、VLT望遠鏡やZTFを含む様々な望遠鏡のデータの解析を行っていた。そして今年の2月にAT2022cmcと呼ばれるガンマ線バーストが捉えられ、そのデータを解析した結果、このガンマ線バーストが星の潮汐破壊現象によって生じたブラックホールから噴き出すジェットであることが判明した。

 

 今回の解析結果は、宇宙最遠方の星の潮汐破壊現象を見つけたことになると同時に、初めて可視光線のデータから星の潮汐破壊現象の兆候を見つけたこととなる。そのため今回の解析結果によって、研究者が星の潮汐破壊現象を捉えるのに可視光線データを利用するという新たな一歩を踏み出したと共に、ブラックホールまわりの環境の理解をする上で大きな一歩を踏み出すことになるとしている。