JWSTが捉えた南のリング星雲の姿

1月4日

 

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, CSA, and O. De Marco (Macquarie University). Image processing: J. DePasquale (STScI).

ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡のMIRI(中間赤外線観測装置)とNIRCam(近赤外線観測装置)によって撮影された南のリング星雲の姿。左の写真では2個の中心星を白いガスが覆っている姿が写っているが、このガスはホットガスを示している。右側では、星から放出されるガスや塵などのアウトフロー(ジェット)が宇宙空間に向けて放射される様子を示している。左側の写真で青色は1.87マイクロメートル、緑色が4.05マイクロメートルの光を示し、右側では青色が2.12マイクロメートル、緑色が4.7マイクロメートルの光を示す。両画像において赤色の部分は7.7マイクロメートルの光を示す。

 

 NASAは12月9日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)のMIRI(中間赤外線観測装置)、NIRCam(近赤外線観測装置)によって捉えられた南のリング星雲の姿を公開した(図1)。シドニー大学(オーストラリア)のDe Marco氏が率いる研究チームがこれらのデータを解析した結果、南のリング星雲が少なくとも2つの中心星(3つの星、もしくはそれ以上になる可能性もある)によってその形が形成されていることが明らかになったと発表した。さらに研究チームは、JWSTの観測データとESAの人工衛星Gaiaのデータを組み合わせて、南のリング星雲中心にある星が星雲を形成する前の質量を見積もった結果、太陽質量の3倍の質量を持つことが判明した。この星がジェットによってガスと塵を放出することによって星雲が形成されるが、ジェットによる質量放出後の現在の質量はおよそ太陽質量の60%ほどであるとしている。星雲中心にある星の初期質量を正確に調べることができたことは、星雲がどのようにして形成されたかを理解することにつながる重要な成果であるとしている。

 

 南のリング星雲はNGC3132の通称であり、ほ座方向約2000光年に位置する惑星状星雲である。惑星状星雲は、恒星が時間とともに赤色巨星に進化し、その後周囲のガスを星間空間へ放出したものである。ガスを放出した後に残される中心星(白色矮星)は、10万度という高温で強い紫外線を放射する。この紫外線によって照らされた周囲のガスが光っているのが、惑星状星雲として観測される。

 

 今回JWSTが撮影した南のリング星雲の写真(図1)における左の写真をみると、まわりに赤い色のものが広がっているが、これは中心にある星が数千年以上かけてガスや塵の層を脱ぎ捨ててきた痕跡である。この赤い部分で囲む大きさは太陽系のカイパーベルトと同じくらいの大きさである。南のリング星雲にあるいくつかの星は連星系をなしており、少なくとも一つは中心の星と連星系をなし、ガスと塵を供給する関係にある。今回のJWSTによる撮影によって星から放出されるガスや塵などで構成される分子雲の軌跡がしっかり映し出されたことについてDe Marco氏は「今回の写真によって南のリング星雲の詳細な姿が明らかになった。今後の解析によって多くのことが明らかになるだろう。」とコメントしている。

 

 研究チームは現在の南のリング星雲の写真から、その中に存在する星が過去にどのような姿をし、どれくらいの質量を持っていたかなどを見積もることによって、どのようにして南のリング星雲が形成されてきたかを研究することを目指すこととしていた。

 

 最初に、赤いダストで囲まれて見ることができない外層を脱ぎ捨てた年老いた星に着目することとした。この年老いた星まわりには、塵の円盤が形成されることが今回のデータから明らかになった。研究チームの1人であるJoel Kastner氏は「現在この年老いた星はより小さくなり、熱を持った状態になっているが、冷たい塵によって取り囲まれている」とコメントしている。また研究チームは死に向かう年老いた星が死を迎える前に1つもしくは2つの伴星と相互作用をし、双極方向のジェットを放出すると考えているが、今回のJWSTによる写真(図2)によってまさに、南のリング星雲の縁においてそのジェットが観測されていることがわかる。伴星がどこに存在するかは明確になっていないが、中心にある2個の星の光によってその姿が隠されている、もしくはすでに死にゆく星と合体した可能性があるとしている。また南のリング星雲がとても複雑な構造をしており、星からのガスや塵の放出であるジェットが薄かったり、濃かったりする部分が存在する。これはもしかしたら連星系のまわりに第3、第4の星が存在し、ジェットの方向をかき乱したり、曲げたりしている可能性があると研究チームは指摘している。このことは写真に写っていない、これまでに見たことのない伴星がまだまだ存在することを示唆している。そして中心星の2個の星のほかに見えない星が3つほど存在し、相互作用しながら現在の姿になった可能性があると研究チームは結論付けている。

 

 

図2 ( C ) NASA, ESA, CSA, and O. De Marco (Macquarie University). Image processing: J. DePasquale (STScI).

1、2で惑星状星雲の縁から飛び出るガスや塵の様子が映し出されているが、1はカーブがかかっているのに対して、2では車輪のスポークのようにまっすぐに突き出ている。2の部分は他の惑星状星雲の縁の部分よりも数百年早く飛び出て、しかもスピードも速く飛び出した可能性があるとしている。青い光は2.12マイクロメートル、緑色の光は4.7マイクロメートル、赤い光は7.7マイクロメートルの光を示す。