1月14日

 

 

 

図1 ( C ) ESA, CC BY-SA 3.0 IGO

ブラックホールによる部分潮汐破壊現象のイラスト図。ブラックホールと連星系を成す星が、ブラックホールの重力によって引き寄せられていき(1)、いよいよ星が飲み込まれようとする(2)。実際に潮汐破壊現象が始まると、星を構成する物質がブラックホールに吸収されていき、物質の流れができる(3)。その後ブラックホール周りには降着円盤が出来上がり(オレンジ色の円盤)、星の残骸が残される(青色の部分)(4)。この段階でX線や紫外線、可視光線などがブラックホールからアウトバーストとして放出される。通常であれば潮汐破壊現象はここで終わりであり、星はばらばらに破壊されているはずであるが、(4)に暗く示された星のように、潮汐破壊された星でも中心のコアが残った星が、前と違った楕円軌道を描きながらブラックホール周りを回転する様子がXMM-Newtonのデータ解析によって確認された。残された星は再度ブラックホールに近づき(5)、前と同じように降着円盤を形成する(6)。ただし再度の潮汐破壊現象によって放出されるアウトバーストは前のものよりも弱い放射線を出す。今回の解析結果のような繰り返し潮汐破壊現象を起こすものは、部分潮汐破壊現象と名付けられた。

 

 ESO(ヨーロッパ南天天文台)のThomas Wevers氏とマックスプランク地球外物理学研究所(ドイツ)のZhu Liu氏が率いる2つの研究チームは12日、天の川銀河はずれにある地球からおよそ9億光年と10億光年離れた場所にある2つの銀河をもつ、超巨大ブラックホールを対象とするXMM-NewtonのX線、可視光線のデータを解析した結果、複数回にわたるブラックホールからのアウトバースト現象を捉えることに成功したと発表した。このことはブラックホールが複数回にわたって星の潮汐破壊現象を起こしていることを示している。今回の複数回にわたる潮汐破壊現象は、部分潮汐破壊現象と名付けられた。また部分潮汐破壊現象を受けた星がその後もブラックホール周りを回転し続け、再びブラックホールに近づいたときに部分潮汐破壊現象を受ける様子も確認された(図1)。通常、ブラックホールによる潮汐破壊現象は、1度で星がブラックホールによってのみこまれ、1回だけアウトバースト現象が発生すると考えられていたことから、これまで考えられていた潮汐破壊現象の理論を覆すこととなる。

 

 超巨大ブラックホールはほとんどの銀河の中心に存在している。その質量は太陽質量の数十万~数十億倍にもなる。しかしブラックホールは光を吸収するため、その姿を直接的に捉えることは不可能である。そこで間接的にブラックホールを観測する方法として潮汐破壊現象を用いたブラックホールの検出方法がある。星がブラックホールに近づくと、星がばらばらに破壊されてブラックホールに飲み込まれてゆくが、ブラックホールからのフィードバックにより、ブラックホール周りに星の残骸による円盤が形成される。またこの過程においてブラックホールからX線、紫外線、可視光線が放出される。つまりブラックホール候補天体から出るこれらの光を捉えれば、潮汐破壊現象が認識され、その候補天体がブラックホールであるということがわかるのである。

 

 これまでは潮汐破壊現象といえば、ブラックホールが星を飲み込んでいる間に、数か月続くフレアーとよばれるまばゆい光を放つアウトバースト現象が発生することであり、その現象は1度だけ発生すると考えられていた。

 

 しかし今回研究チームが、天の川銀河はずれにある2つの銀河を持つ超巨大ブラックホールを対象とするXMM-Newtonの観測データを解析した結果、ブラックホールまわりの星の特異な動きと共に、2個のフレアーが発生していることがわかった。このことは1回目のアウトバーストが発生してからX線や紫外線を繰り返し放っていることとなり、星が最初にブラックホールに近づいたときに一度に全て壊されるわけではなく、部分的に破壊されていることを意味している。X線や紫外線のデータをみても、星の全てが壊されているわけではなく、部分潮汐破壊を受けた後も、星がブラックホール周りを回転し続け、再び部分潮汐破壊現象を起こしていることが確認された(図1)。なおXMM-Newtonによる観測はZhu氏によって2021~2022年に行われ、約223日ごとにアウトバースト現象が繰り返し発生していた。Zhu氏は「XMM-Newtonによるデータを見たときに大変驚いた。eROSITA望遠鏡による2週間分のデータと比べて、X線量が明らかに少なく観測されたためである。XMM-Newtonや他の宇宙望遠鏡による追観測によって、このX線量の異常な少なさは部分潮汐破壊現象によるものであることを確認した。」とコメントしている。また今回の解析結果は、潮汐破壊現象を受けた星が連星系を成すブラックホールまわりを回転しながら、潮汐破壊現象を受けるたびにブラックホールに近接しながら回転運動をすることを示唆するとしている。これまでは潮汐破壊現象を受けた星が直接ブラックホールに吸収されると考えられていたことから、これまでの理論を覆すこととなる。

 

 これまでにXMM-Newtonや他の宇宙望遠鏡による観測によって、1990年代に初めて潮汐破壊現象が確認されてから100もの潮汐破壊現象が発見されてきた。研究チームは引き続き今回の部分潮汐破壊現象におけるアウトバーストの観測を続けていき、部分潮汐破壊現象がどのようにして起こるのか、また超巨大ブラックホール周りの環境の理解を目指すとしている。