NGC346星団の原始星まわりの塵を捉えることに成功

1月24日

 

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, CSA, O. Jones (UK ATC), G. De Marchi (ESTEC), and M. Meixner (USRA). Image processing: A. Pagan (STScI), N. Habel (USRA), L. Lenkic (USRA) and L. Chu (NASA/Ames).

ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡の近赤外線観測によって撮影された、小マゼラン雲内にある星形成を活発に行う星団・NGC346の姿。図の中においてピンク色をしている部分は1万℃ほどのエネルギーを持つイオン化された水素のガス塊を示している。またオレンジ色の部分は、ピンク色の部分とは対照的に-200℃ほどの低温状態であり、塵と結びついた水素分子の塊を表している。このオレンジ色の部分の冷たい水素分子は星の材料となる。このような環境は、星雲内で作られた若い星から放たれる光が星雲の塊を壊すことによって出来上がると考えられている。青色の部分は波長が2.0マイクロメートルの光、緑色の部分は2.77マイクロメートル、オレンジ色の部分は3.35マイクロメートル、赤色の部分は4.44マイクロメートルの光を示す。

 

 NASA/CSA/ESAは12日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)によって撮影されたNGC346と呼ばれる星形成を行う星団の画像を公開した(図1)。大学宇宙研究協会(アメリカ)のMargaret Meixner氏を中心とする研究チームが、このJWSTによるNGC346の観測データを解析することで、NGC346内の原始星において原始星円盤を構成するガスだけでなく、塵の存在を捉えることに成功した。原始星円盤に集まる塵の様子を捉えたのは今回が初めてであるとしている。このことは星団内における星だけでなく、今後星団内において惑星が見つかる可能性を示すものであるとしている。また従来NGC346内の原始星の質量が太陽質量の5~8倍よりも重いと考えられていたが、実際には太陽質量の1/10程度であることも判明した。今回の研究成果は原始星まわりにガスや塵がどのようにして集まってくるのか、そして原始星まわりの環境がどのようなものであるかの理解を深めるうえで重要な観測結果であるとしている。

 

 NGC346は天の川銀河近傍の矮小銀河・小マゼラン雲の中に存在し、地球からおよそ20万光年離れた場所にある。小マゼラン雲内には、水素やヘリウムよりも重い重元素が天の川銀河に比べて少ない。宇宙に存在する塵はほとんど金属で構成されているため、小マゼラン雲においては塵が少ないことを意味し、当然小マゼラン雲の中にあるNGC346においても塵の存在を検知することは困難であると考えられていた。

 

 今回研究チームは小マゼラン雲内において星形成活動を活発に行う領域を見つけ、その中の塵の存在を発見し、星形成活動を行う原始星のまわりの環境の理解を深めることを目標にしていた。星形成活動領域をみつけるにあたっては、“宇宙の昼”と呼ばれる数十億年前の時期における銀河内の金属量や金属の状態を参考にすることとした。なお“宇宙の昼”は星形成活動がピークにいたる銀河が多く存在した時代のことをいう。

 

 今回のJWSTによる小マゼラン雲内の観測によって、図1のようなとてもきれいな星形成領域を持つNGC346星団の写真を撮影することに成功した。Margaret Meixner氏は「“宇宙の昼”における星形成領域は小マゼラン雲のNGC346だけでなく、数千もの同じような星形成領域が存在していただろう。仮にNGC346が、“宇宙の昼”における銀河の中の唯一爆発的な星形成を行う星団であったとしても、“宇宙の昼”における銀河がどのような状態であったかを理解する機会を、今回のJWSTの観測データが与えてくれた。」とコメントしている。

 

 また共同研究者のOlivia Jones氏(英国天文技術センター/ロイヤル・オブザーバトリー・エディンバラ)は「今回のJWSTによる観測によって、従来NGC346内の原始星が太陽質量の5~8倍よりも重いと考えられていたものが、太陽質量の1/10程度であることが判明した。このことは小マゼラン雲の低金属量が影響している。」とコメントしている。

 

 また星が形成される際には、星の重力によってまわりの分子雲からガスとダストが集まってきて、リボンのような形を形成する。このようにして集まってきたガスとダストは原始星まわりの降着円盤に集まって、原始星に物質を供給すると考えられてきた。これまでの観測ではNGC346にガスが集まる様子が観測されていたが、今回のJWSTの近赤外線観測によって初めて降着円盤における塵を観測することにも成功した。ESA のGuido De Marchi氏は「NGC346の原始星において塵を観測したことによって、星形成領域における星だけでなく、惑星も観測できる可能性がある。また小マゼラン雲は“宇宙の昼”と同じような環境にあるため、岩石型惑星が我々が想像していたよりももっと早くできあがっていた可能性がある」とコメントしている。

 

 研究チームはまたJWSTによる分光観測も続ける予定であり、これらの観測データを解析することで原始星にどのようにしてガスや塵が集まってくるのか、また原始星まわりの環境についての理解が進むであろうと期待をよせている。