準惑星「クワオアー」まわりのリング構造を発見

2月11日

 

 

 

図1 ( C ) ESA, CC BY-SA 3.0 IGO

準惑星「クワオアー」とそのまわりのリング構造のイメージ図。左には衛星であるウェイウォットの姿がある。

 

 リオデジャネイロ連邦大学(ブラジル)のBruno Morgado氏を中心とする研究グループは8日、太陽系外縁天体の1つであり準惑星である「クワオアー」のケオプス宇宙望遠鏡の2018年~2021年に行われた観測のデータや地上望遠鏡のデータを解析した結果、クワオアーまわりのリング構造を捉えることに成功したと発表した(図1)。準惑星のカリクロー、ハウメアに続き、3度目の準惑星まわりのリング構造発見となる。リングはクワオアー中心から、その半径の約7.5倍ほどの場所に存在する。リング状の物質はロッシュ限界よりも外側にあるが、なぜ月のような衛星にならなかったのかが大きな疑問として残るとしている。

 

 クワオアーは3000個ほど発見されている海王星以遠の太陽系外縁天体の一つであり、カイパーベルト天体に属する。直径は約900kmであり、太陽周りを287年の周期で公転する。2002年にパロマー山天文台からの観測で初めて発見された。また2006年にはハッブル宇宙望遠鏡によってウェイウォットと呼ばれる半径がおよそ80kmの衛星が発見された。クワオアーは地球から非常に遠くの位置にあり、大きさも小さいことからそのまわりの環境を捉えることはこれまでできていなかった。

 

 研究チームはクワオアーまわりの環境を解明すべく、“occultation”という現象に着目した。Occultationは観測したい天体がその天体よりも遠くにある星の前を通過した際に、星からの光をさえぎることを意味する。このoccultationがどの程度起こるかを調べることで、クワオアーのサイズや形を理解することにつながる。またoccultationを起こす物体の大気構造がどうなっているのかを調べることも可能である。このoccultationを捉えるためには、望遠鏡と、観測したい天体、天体によって隠される星が一直線上に並ぶ必要があるが、これまではこのような並びを捉えることが難しいとされていた。しかし近年のESAの位置天文衛星Gaiaによる観測のおかげで、天体や星の位置が非常に正確に捉えられるようになったため、occultationを捉えることがこれまでよりも簡単にできるようになった。

 

 研究チームはoccultationの現象を用いた観測によって、まずは太陽系外縁体の中で最も大きなプルートまわりの環境を捉えることを試みた。しかし地球の大気の影響によってoccultaionによる星からの光の減少度に補正が加わってしまい、プルートまわりの環境を捉えることにつながらなかった。そこで今度はクワオアーに注目することとなった。

 

 研究チームがクワオアーをケオプス宇宙望遠鏡で観測した結果、大きなノイズ信号が捉えられた。そしてこのノイズ信号から地球大気による影響を除いた信号を解析した結果、この大きなノイズ信号がクワオアーのリング構造によるものであることが判明した。この解析を行ったリオデジャネイロ連邦大学のBruno Morgado氏は、ケオプス宇宙望遠鏡以外に、地球上の望遠鏡が撮影したクワオアーの姿や、アマチュアの方が撮影したものも利用して解析を行った。このリングの質量は土星衛星ミマスの1/2~1/3程度であり、非常に少ないとしている。

 

 また重力多体系において、ロッシュ限界(*注1)と呼ばれる、衛星が主星に近づく際にばらばらに破壊される臨海の軌道半径が存在する。土星やカリクロー、ハウメアはロッシュ限界の内側にリングが存在するが、クワオアーのリング構造はロッシュ限界のはるか外側に存在することも判明した。もしロッシュ限界の外側にあれば、リング構造にある物質が全て合体して、月のような衛星に数十年のうちになるはずである。しかし今回の観測結果は、この理論に当てはまっていない。なぜ月のような衛星にならずにリングとして残っているのかについて、研究チームは、クワオアーが非常に気温の低い状況にあり、リング構造にある氷の粒子同士がくっつくのを妨げているのではないかと推論している。

 

 研究チームは今後もoccultationを利用した太陽系外縁天体まわりの環境の調査を続けていく予定である。またクワオアーまわりのリングが月にならずにリングとして残っている要因を引き続き探り続けるとともに、他のこのようなリング構造をもつ準惑星を発見することを目図すとしている。

 

*注1 衛星が惑星の十分近傍を公転している場合、潮汐力が衛星の自己重力よりも大きくなり、衛星を破壊しようとする(潮汐破壊)。衛星の物質強度を無視し自己重力流体であると近似した場合、衛星が潮汐破壊を受けてばらばらになる臨界の衛星軌道半径のことを、ロッシュ限界(またはロッシュ限界半径)と呼ぶ。