重力レンズによって3つの像となった銀河団

3月4日

 

 

 

図1 ( C ) ESA/Webb, NASA & CSA, P. Kelly.

ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡によって撮影された、重力レンズによって3つの像が作られた銀河団。重力レンズ天体はみずがめ座方向約32億光年先にあるRX J2129銀河団。真ん中の像は2つの銀河の間にあるⅠa型スーパーノヴァがしっかりと捉えられている。下の像はスーパーノヴァが発生してから320日後が経過した像、上の像は1000日経過した像である。

 

 NASA/ESA/CSAは2月28日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の近赤外線観測装置・NIRCamによって撮影された、重力レンズによって3つの像となった銀河団の写真を公開した(図1)。重力レンズ天体は、みずがめ座方向約32億光年先にあるRX J2129銀河団である。また3つの像のうち真ん中の写真では、とても明るく輝くⅠa型スーパーノヴァが捉えられている。これらの3つの像に分解された銀河団は、重力レンズ天体よりももっと遠方の宇宙にある天体であり、3つの像はそれぞれ大きさや光の強さが異なっている。

 

 ある天体からの光が地球に向かってやってくる際に、途中に強大な重力を持つブラックホールや銀河団が存在すると、光がその強大な重力に引き寄せられて、光の軌道が曲げられたり、増光する現象が起きる。この現象は重力レンズ効果と呼ばれる。また今回のように複数の像が現れることもある。重力レンズ天体周りの円に沿って、光源が円の接線に沿って伸ばされる効果も生ずる。

 

 図1の真ん中の像において2つの銀河の間にあるⅠa型スーパーノヴァ爆発現象は、星の死を終えるときに爆発する現象であり、非常に強力な光を放出する。このように明るく輝く天体があると、まわりの銀河団までの距離を容易に確認することができるため、天文学者たちにとっては大きな助けとなる。また光の強さから、観測者と天体の間にある重力レンズ天体がどれだけの増光能力を持つかを確かめることができ、どれくらいの質量を持つかを見積もることもできる。さらにⅠa型スーパーノヴァの通常の光の強さと比べて、重力レンズによる増光度を確かめることで、重力レンズ効果がどのように働いているかを確かめることもできる。

 

 今回JWSTのNIRCamによって図1のような3つの像を持つ銀河団が捉えられた。このように3つの像を持つのは、重力レンズ天体である銀河団の中身が不均一にあるからであるとしている。銀河団の強大な重力によって曲げられた光はそれぞれ長い軌道を通ってきたり、短い軌道を通ってきたりとばらばらである。写真右の中央にある写真はスーパーノヴァ爆発現象が鮮明に写っており、AT 2022rivと名付けられた。その下の写真はスーパーノヴァが起きてから320日後に現れた像であり、上の写真は1000日後に現れた像である。上下2つの像では、いずれもスーパーノヴァ爆発現象が消えていることがわかる。なお3つの像のうち、真ん中の像が一番長い軌道を通ってきたこととなる。一番長い軌道を通ってきたがために、他の写真よりも年齢の古い像が得られているということである。

 

 JWSTは今後も近傍宇宙に存在するスーパーノヴァを捉えることを目標としており、今回撮影された写真と比較を行うことで、スーパーノヴァ爆発現象の特徴が理解されることが期待されるとしている。

 

*注1 Ⅰa型スーパーノヴァは、連星系で、進化して巨星となった伴星から主星である白色矮星にガスが降り積もったり、白色矮星同士が合体することによって、白色矮星がその限界質量(チャンドラセカール限界質量)を超えたときに爆発する現象であると考えられている。