これまでで最も地球に近い2個のブラックホールを発見

4月1日

 

 

 

図1 ( C ) ESA/Gaia/DPAC; CC BY-SA 3.0 IGO, CC BY-SA 3.0 IGO.

人工衛星Gaiaによる天の川銀河の全天図と、今回発見されたブラックホール2個の位置。ブラックホール1はへびつかい座方向1560光年の場所に位置し、ブラックホール2はケンタウルス座方向3800光年の場所に位置する。

 

 Kareem El-Badry氏(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター/マックスプランク研究所)を中心とする研究グループは3月30日、天文位置衛星Gaia DR3データの解析から、これまでに見つからなかった新たなブラックホールを2個発見することに成功したと発表した。1つはへびつかい座方向約1560光年の位置にあり、もう一つはケンタウルス座方向約3800光年の位置にあり、Gaia BH1、BH2と名付けられた。これまでに見つかったブラックホールの中で最も地球に近いブラックホールであるとしている(図1)。ブラックホールの探索手段としてはX線観測や電波観測によるものが主であったが、今回はブラックホールと連星系を成す星が、ブラックホールの重力の影響を受けて行う運動をもとに、ブラックホールの存在を確かめるという方法を用いた。この方法で見つかった2つのブラックホール候補天体が、Gaia DR3のデータの解析結果や他の宇宙天体望遠鏡の観測結果を基に、何も光を出さないことが判明した結果、研究チームはこの2つの強大な重力を持つ天体がブラックホールであるということを断定した。研究チームはこれらのブラックホールが何の光を出さない理由が、伴星からの距離が遠いことが要因であると推測している。今後もGaia DR3のデータの解析を基に、このような伴星から距離の離れたブラックホール(Wider systemsと呼ばれている)が地球近くにおいて多数見つかることが期待されるとしている。

 

 Gaia DR3は天の川銀河の数十億もの星の位置や運動を観測したデータである。人工衛星Gaiaの正確な観測によって、赤経・赤緯、視線方向の星の動きを捉えて、何の光も出さないブラックホールからの重力の影響を考慮することによって、ブラックホールを発見する試みが天文学者の間で行われている。

 

 今日までに発見されてきたブラックホールは、X線観測や電波観測によって見つかったものであるが、これらのブラックホールはブラックホールと距離が近い伴星からブラックホールに向けて物質が落ち込み、ブラックホールがその物質を吸収することによって放たれる光が観測されたものである。

 

 今回のGaia DR3で発見されたブラックホールは、連星系を成す星との距離が遠い影響か、何の光も放たないブラックホールであるということが、これまでに見つかったブラックホールとは大きく異なる点である。何も光を出さないことは、NASAのチャンドラX線望遠鏡、アフリカのミーアキャット電波観測望遠鏡でも明らかにされた。通常であればブラックホールが伴星から物質を吸収する様子が観測されるが、なぜそのような様子が観測されないかは今のところよくわかっていない。Kareem氏は「今回見つかったブラックホールはX線観測で見つかるブラックホールとは形成過程が大きく異なるだろう」とコメントしている。

 

 今回発見された伴星との距離が離れたブラックホールは、地球近くで今後多く発見されることが期待されるとしている。もしこのような伴星との距離が離れたブラックホールが多く見つかれば、このようなブラックホールが宇宙に普遍的に存在することを証明することができるかもしれないと、研究チームは期待を寄せている。またなぜこのような伴星からの距離が離れたブラックホールが形成されるのかはよくわかっていない。この形成過程を理解することも今後の課題であるとしている。