楕円銀河M87中心にある超巨大ブラックホールとジェットの姿を同時観測することに成功

4月29日

 

 

 

図1 ( C ) R.-S. Lu (SHAO), E. Ros (MPIfR), S. Dagnello (NRAO/AUI/NSF).

グローバルミリ波VLBI観測網などの望遠鏡(波長帯3.5mmの電波観測)によって捉えられた、おとめ座方向にある楕円銀河M87中心にある超巨大ブラックホールまわりの光子リングとジェットの様子。リングの直径がEHT観測プログラムの観測結果よりも50%大きいことが判明したが、これは降着円盤をも捉えているからであるとしている。

 

 上海天文台のRu-Sen Lu氏を中心とする研究チームは26日、グローバルミリ波VLBI観測網(GMVA)などの望遠鏡を用いた観測により、おとめ座方向にある楕円銀河M87中心の超巨大ブラックホールの光子リング(ブラックホールシャドウまわりのリング)、降着円盤、ジェットの様子を初めて同時に捉えることに成功したと発表した(図1)。ジェットがどのようにしてブラックホールから放出されるのかを研究する上で重要な観測成果であるとしている。将来的には異なる波長の同時観測によってさらなるブラックホール周りの環境の理解が進むことが期待される。

 

 ほとんどの銀河では中心に超巨大ブラックホールが存在する。今回観測対象となった楕円銀河M87中心の超巨大ブラックホールは、太陽質量の65億倍と推定されている。超巨大ブラックホールはその強大な重力によって近くにある塵やガスなどの物質を吸収し、ジェットを放出する。しかしジェットがどのように放出されるのかは長年の課題である。

 

 おとめ座方向にある楕円銀河M87中心にある超巨大ブラックホールの様子は、2017年のEHT観測プログラム(1.3mmの波長帯による電波観測)によってそのブラックホールシャドウの様子が観測された。その際別の波長帯による観測によって、ブラックホールから噴き出すジェットの様子も観測されている。

 

 今回研究チームは、グローバルミリVLBI観測網(GMVA)、アルマ望遠鏡、グリーンランド望遠鏡などを含む14もの望遠鏡の観測(3.5mmの波長帯による観測)によって、2018年に地球からおよそ5500万光年離れた楕円銀河M87中心にある超巨大ブラックホールの観測を行った。その観測データを解析した結果、図1のようなブラックホールまわりの光子リング、ジェットが放出される様子が同時に捉えられた写真を得ることに成功した。EHT観測プログラムが1.3mmの波長帯による観測であったが、今回3.5mmの波長帯を用いた観測によってこのような写真を得ることに成功した。ジェットがブラックホールまわりをまわる物質とどのようにつながっているかも捉えられたとしている。また2017年にEHT観測プログラムでも観測された光子リング(ブラックホールシャドウまわりのリング)がはっきりと写っている様子がわかる。この光子リングは、ブラックホール周りの物質が軌道運動をすることによって加熱されて、光を放出することによってできあがるリングである。物質が光を放出して、超巨大ブラックホールの強大な重力によって光の軌道が曲げられることによってこのようなリング構造ができあがる。

 

 しかし今回の観測では、EHT観測プログラムによる観測と比べてリングの直径が50%ほど大きいことが判明した。このような違いがなぜ生じたのかを研究チームの一人である台湾中央研究院及天文物理学研究所の浅田圭一氏がコンピューターシミュレーションによって解析した結果、ブラックホールに向かって落ち込んできた物質、いわゆる降着円盤をも捉えているがために、大きなリング構造を捉えたことが判明した。つまり今回研究チームが捉えた写真はブラックホール周りの光子リング、降着円盤、ジェットを同時に捉えた写真であるということになる。

 

 今後も複数の望遠鏡によって、超巨大ブラックホールからどのようにしてジェットが放出されるのかを観測し続ける予定である。マックスプランク電波天文学研究所のEduardo Ros氏は「M87おとめ座銀河団まわりの超巨大ブラックホールからジェットがどのように放出されるのかを研究するために、異なる波長による同時観測も視野に入れている。近い将来に近傍宇宙における現象の理解が進むことがとても楽しみである」とコメントしている。