天王星まわりの4つの衛星に液体の海が存在する可能性

5月6日

 

 

 ジェット推進研究所(NASA)のJulie Castillo-Rogez氏を中心とする研究グループは5日、土星衛星のデータを取り込んだ新たなコンピュータモデルを用いて、宇宙探査機「ボイジャー2号」の天王星のまわりの観測データを解析した結果、天王星(図1)まわりの4つの衛星において、中心核と衛星表面の氷の層の間に液体の海が存在しうることを見出したと発表した。4つの衛星の海の深さは数十マイルにもなるとしている。今回の解析では、液体の海が氷になるのを防ぐアンモニア、塩化物、塩がどれだけ海に存在するかを確かめた。今後これらの衛星において液体の海が存在する確証を得るために、これらの化学物質をより正確に観測できる宇宙探査機の登場が待たれるとしている。

 

 米宇宙探査機ボイジャー2号は、1977年に打ち上げられ、木星や土星、天王星、海王星を次々と観測して貴重なデータや鮮明な画像を地球に送信してきた。現在も宇宙空間に存在している。

 

 天王星は少なくとも27個の衛星があると考えられている。最も大きい衛星はチタニアであり、直径が1580kmある。他にもアリエル(直径が1160km)などの直径の大きな衛星が複数ある(図2)。

 

 従来はチタニアなどの大きな衛星であれば、内部に存在する放射性物質の自然崩壊により、液体の海が氷層になるのを防ぐだけの熱が供給されると考えられていた。直径の小さな衛星では、海が表層になるのを防ぐ熱の供給源が、天王星からの重力しかないと考えられていた。

 

 研究チームは今回ボイジャー2号のデータを用いて、新たなコンピュータモデルを導入し、天王星の27個の衛星のうち5個の衛星(アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロン、ミランダ)の解析を行うこととした。例えば土星の衛星エンケラドス、プルートなどの観測を行った、ガリレオ、カッシーニの観測データをコンピュータモデルに組み込んでいる。土星の衛星をモデルに組み込んだのは、その表層にある氷の層が天王星のものと似ているからである。また天王星の衛星の表層の空隙率がどれくらいあるのかを確かめることとした。表層の空隙率が多ければ断熱性が保たれ、海が氷になるのを防ぐことができる。したがって表層の空隙率が高ければ、海が液体として存在する可能性があることとなる。また衛星の中心にあるマントルが熱源として有効かどうかを確かめることとした。

 

 実際に解析を行った結果、5個の衛星(アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロン、ミランダ)のうち、ミランダを除く4つの衛星に液体の海が存在する可能性があることがわかった。特にチタニアとオベロンについては生物生存可能性があるほどの温かい海が存在するとしている。また表層にある化学物質を特定することにも成功し、アリエルではマントルから噴き出した溶岩が氷の層を突き抜けて、“氷の火山”が存在することが判明した。ミランダはいくつかの場所において液体の海が存在しうるほどの熱の供給源が整っているものの、液体の海を長い状態で保つことは難しく、液体の状態からすぐに凍る可能性が高いとしている。実際にミランダでは液体の海の層が今の時点では見当たらない。

 

 液体の海を作るのに必要な要素は熱源だけではなく、海の中にアンモニアや塩化物、塩がどれだけ存在するかも必要な要素になるとしている。アンモニアや塩化物、塩は氷になるのを防ぐ効果があるからである。

 

 研究チームは今後も天王星の衛星に液体の海が存在する可能性があるかどうかについて研究を行っていく予定であるが、衛星の起源について異なる仮定を設けることも、将来の観測に向けて必要なことであるとしている。また液体の海が氷になるのを防ぐアンモニアや塩化物を検知しやすい波長帯を用いた観測を行うことができるかどうかが、今後の課題であるとしている。

 

 

図1 ( C ) NASA/JPL/STScI.

1998年にハッブル宇宙望遠鏡で捉えられた天王星。天王星には4つのリングが存在し、画像では天王星まわりの4個の衛星が写っている。

 

 

図2 ( C ) Credits: NASA/JPL-Caltech.

土星衛星アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロン、ミランダの直径及び地殻構造を示したもの。それぞれの衛星において氷の層の下に液体の海が存在し、その下には水を含む岩石や、水を含まない岩石の層が存在する。