球状星団M4において中間質量ブラックホールの候補天体を発見

6月3日

 

 

 

図1 ( C ) ESA/Hubble & NASA

ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された、さそり座方向約6000光年の距離にある球状星団M4。

 

 宇宙望遠鏡科学研究所(アメリカ・ボルチモア)のEduardo Vitral氏を中心とする研究チームは5月23日、地球からさそり座方向約6000光年に位置する球状星団M4(図1)のハッブル宇宙望遠鏡による観測データと人工衛星Gaiaのデータを解析した結果、星団中心付近に中間質量ブラックホールが存在する証拠を示すことに成功したと発表した。中間質量ブラックホールはこれまでに宇宙においてあまり発見例がなく、今回の研究成果は画期的なものであるとしている。

 

 天の川銀河には超新星残骸から生まれた太陽質量の数倍程度の小さなブラックホールが、1億個ほど存在すると考えられている。他にも様々な大きさのブラックホールが存在すると考えられており、今回存在が見いだされた中間質量ブラックホールは、太陽質量の100~10万倍程度の大きさである。中間質量ブラックホールの候補天体はこれまでにあまり発見例がなく、天の川銀河外においては2020年に発見された3XMM J215022.4-055108と2009年に発見されたHLX-1のみである。これらのブラックホールは太陽質量の1万倍程度であり、かつては、矮小銀河中心に存在していたものであるとされている。天の川銀河内においては、天の川銀河の外縁に存在するいくつかの球状星団内において、中間質量ブラックホールの候補天体が確認されている。

 

 今回研究対象となった球状星団は、数万~数百万個の星が自己重力に集まった天体であり、天の川銀河において150個ほど見つかっている。球状星団中心にブラックホールが存在するかどうかは未解明の問題であり、様々な研究が行われてきた。例えば2008年にはハッブル宇宙望遠鏡による観測データからOmega Centauriという球状星団において中間質量ブラックホールの候補天体が発見されている。

 

 今回研究チームは地球から約6000光年離れた位置にあるM4球状星団のハッブル宇宙望遠鏡による観測データを解析して、ブラックホールが存在するかどうかを確かめることとした。実際にブラックホールが存在することを直接的に確認することはできないが、12年に渡るハッブル宇宙望遠鏡の観測によって得られた、球状星団中心付近の星の動きや重力場のデータを利用することとした。さらに今回の解析にあたり、ESAの位置天文衛星Gaiaのデータも利用された。GaiaデータにはM4に存在する6000個の星のデータが含まれている。実際にこれらの解析を行った結果、M4球状星団の中心に太陽質量の800倍の中間質量ブラックホールが存在することが判明した。ハッブル宇宙望遠鏡による観測データから、球状星団中心にある中間質量ブラックホールが他の候補天体である可能性、例えば中性子星や小さなブラックホールが集まったものである可能性は排除されつつあるとしている。

 

 Eduardo Vitral氏は「ハッブル宇宙望遠鏡やGaia衛星による観測データでは、球状星団中心にある超新星残骸からできたと考えられるブラックホールが一つにまとまっているか、ばらばらになっているかどうかは区別できない。そのため中心にある中間質量ブラックホールが、実はもっと小さなブラックホールが40個ほど集まった天体である可能性もある。このようにばらばらになっている場合には、星の運動の解析から、40個のブラックホールが0.1光年以内に集まっていることになる。またこれまでに他の球状星団において中心付近にブラックホールが存在することを確かめているが、これまでに見つかったものよりも質量の大きさが1/3ほどの小さなブラックホールである。」とコメントしている。

 

 研究チームでGaiaデータ解析を担当したTimo Prusti氏は「今回の研究成果は科学史における新たな発見である。今後もデータを解析することによって球状星団における中間質量ブラックホールの存在が確固たるものとなるであろう。」とコメントしている。

 

 Gaiaデータは今後固有運動を含む新たなデータが発表される予定であり、またハッブル宇宙望遠鏡のデータや現在稼働中のジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡による観測データによって新たな知見がもたらされることが期待されるとしている。