VLT望遠鏡が連星系・HD 148937の謎を解き明かす

4月14日

 

 

 

写真1 ( C ) ESO/VPHAS+ team. Acknowledgement: CASU.

ESOのVLT望遠鏡の可視光観測によって捉えられた連星系・ HD 148937とそのまわりの星雲・NGC 6164/6165の姿。星雲は「竜の卵」というニックネームがつけられている。

 

 Abigail Frost氏(ESO)を中心とする研究チームは11日、VLT望遠鏡の可視光線観測によってHD 148937と呼ばれる連星系周りの星雲・NGC 6164/6165の詳細な様子を捉えることに成功したと発表した(写真1)。研究チームがVLT望遠鏡の観測データを解析した結果、HD 148937連星系を構成する星の一方が若くみえる星であり、もう片方の星は2つの星が過去に衝突合体して、大きな磁性を持った星であることが判明した。さらに連星系まわりの星雲・NGC 6164/6165は中心にある星達よりも若く、星の内側にいくほど密度の高いガスが形成されていることも判明した。今回の研究結果はHD 148937が元々3つの星からなる連星系であったことを示唆しており、HD 148937の成り立ちを考える上で重要な研究成果であるとしている。

 

 連星系・HD 148937はじょうぎ座方向約3800光年ほど離れた場所に位置する。過去にハーシェル宇宙望遠鏡による観測も行われ、連星系の片方の星が過去に2つの星が衝突してできたのではないかという予測が立てられていた。

 

 今回研究チームが連星系・HD 148937のVLT望遠鏡による観測データを解析した結果、片方の星がもう片方の星より150万年ほど若くみえる星であることが判明した。Frost氏は「連星系・HD 148937を構成する星は同時期にできた星であるはずであるため、実際に片方の星が若いわけではなく、もう片方の星が若返らせたに違いない」とコメントしている。さらにこの連星系が過去に3つの星からなる連星系で構成されていた可能性が高いと研究チームは指摘している。3つのうちの2つ星が非常に近い距離で連星系を成し、これらの星が衝突合体して磁性を持った一つの星になり、その過程で多量の物質を放出し、星雲が形成された可能性がある。もう一つの星はこれらの連星系から離れた場所にある。そして現在は2つの星からなる連星系を構成しているといったシナリオを研究チームは描いている。

 

 しかしここでなぜ衝突合体した星だけが磁性を持った一つの星になったのかが疑問として生じるとしている。太陽のような星は磁場を持つが、衝突合体した星のように、質量の大きな星は磁場を星の生涯にわたって保持することが困難であると考えられている。この点についてFrost氏は「2つの星が衝突合体して間もない時期にあるため、磁場を持った巨大な星を観測できている可能性がある」とコメントしている。

 

 またHD 148937まわりの星雲・NGC 6164/6165が連星系よりも7500年ほど若いことが判明した。星雲は多量の窒素、炭素、酸素で構成されており、連星の内側にいくほどこれらの元素が多いことが判明した。このことは連星系において過去に激しいできごとがあったことを示唆するものであるとしている。

 

 チリのアタカマ砂漠に建設中のELT望遠鏡がさらなるHD 148937の観測を行って、新しい知見がもたらされることが期待されるとしている。